朝目覚めた時、読者の皆さんはまず何をされているだろうか?無論、身支度やら朝食やら色々なことがある。しかしある時から、私たち全員の生活の中に自然を装って入り込んできたことがある。それは「寝ている間にトランプ米大統領が何を言ったのか?」をチェックすること、である。なぜならば我が国のメディアはといえばテレビからラジオ、そして新聞から果てはインターネットに至るまで、全てが「ここ」から始まるのが常になっているからだ。いつの間にかそうなったわけであるが、とにもかくにもこのことは瞬く間に広がり、当然視されているのであって、もはや「これっておかしくないか?」と誰も言わなくなっている。
しかも厄介なのは「こうなった」のがドナルド・トランプという、一人の世にも珍しい人物に固有のキャラクターによっていると誰しもが信じ込んでいる点なのである。「暴言」に次ぐ「暴言」を公人とはおよそ考えられないような頻度と密度でほえ続ける同人について、もはや米国の大手メディアですらすることができなくなっている。なぜならば、これまたトランプ米大統領が「私怨」とでもとれるような罵詈雑言で当該メディアを責めると、今度はその取り巻き連中が一斉に厳しい措置をターゲットとなったこの可哀そうなメディアに対して課すからである。その結果、「アメリカン・デモクラシー」の根幹を支えていたはずの「言論の自由(freedom of speech)」は見まも哀れに蹂躙され、ほぼ毎日が「トランプ節」という日常が広がってしまっている。しかもこれが全世界においてそうであるというのだから、すさまじいことだ。
ぜひ、読者の皆さんには一つ、思い出していただきたい言葉がある。それはかつてフランクリン・D・ルーズベルト米大統領(当時)が語った次のような警句だ。
「世の中に偶然などということは一つもない。私は賭けてもいい」
その夫人が後にCIAへと発展するOSSに実は属していたことで知られる同大統領の言葉にはかなりの重みがある。すなわち「当たり前に生じたかのように見える出来事には常に仕掛け人がいるのだよ」ということである。もっともこのことは巷の陰謀論を煽っているわけではないことにも留意する必要がある。何でもかんでも「他責」に走ればいいわけではない一方で、客観性の担保に留意しつつ、一つひとつ事実(fact)を積み上げていくと見えてくることがあることもまた真実なのだ。
例えば今回冒頭で述べたような状況であるが、これは実のところ「戦略的言説(strategic narrative)」と呼ばれる、米国勢の国家戦略の一つによるものである。まず、米国は1980年代の前半に経済的な低迷から立ち直りを図るにあたり、「情報」とそれを支える「半導体」にテーマを絞り込み、そこで米国が発展を遂げることを邪魔しようとする全てのものを実力をもって排除してきた。その結果、まずはインターネットの世界を米国勢が牛耳ることとなり、さらにはそこでのプラットフォームは全て米国由来という状況を実現したのである。その一つがソーシャルメディアである。
そしてそれらが十分普及した段階で今度は、「日々、言説を一見したところ思いつきで語るかのようでいて、実のところ戦略的な筋書き通りに語る人物」をリーダーにしたのである。この人物はメディアで活躍し、その中で「ト書きはあるものの、あたかも自分の言葉でそれを語れることに卓越した能力を持つ人物」でなければならない。もうお分かりであろうが、このようにして選ばれたのがドナルド・トランプその人なのである。「トランプ節」を安直にとらえてはならない。その背後において実質的な「戦略的言説」とその筋書きを考えている「奥の院」の姿を知らなければならない。「ディープステート」などとトランプが叫ぶ時、そこに巧妙な煙幕を感じなければならない。なぜならば、そうすることによってこそ「真実」が見えてくるからだ。全てはそこから、始まる。
原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。
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※『Nile’s NILE』2026年4月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

