善光寺平 晩秋のにぎわい

古くから「善光寺平」と呼ばれている長野盆地。その文化的、精神的支柱となっているのが長野市の善光寺だ。堂々たる建築群、参道のにぎわい、そして信仰の中心としての存在感は今も昔も、全国から人を引き付けてやまない。その長野市からほど近い小布施は、葛飾北斎晩年の地であるとともに、上質な栗の産地としても有名だ。栗の銘菓を目指す人々で、とりわけ栗の季節は活況を見せる。

Photo Masahiro Goda Text Izuzmi Shibata

古くから「善光寺平」と呼ばれている長野盆地。その文化的、精神的支柱となっているのが長野市の善光寺だ。堂々たる建築群、参道のにぎわい、そして信仰の中心としての存在感は今も昔も、全国から人を引き付けてやまない。その長野市からほど近い小布施は、葛飾北斎晩年の地であるとともに、上質な栗の産地としても有名だ。栗の銘菓を目指す人々で、とりわけ栗の季節は活況を見せる。

一生に一度は善光寺参り

長野県長野市を中心とする長野盆地は、古くから「善光寺平(ぜんこうじだいら)」と呼ばれている。その文化的中心にあるのは、言わずもがな善光寺だ。

創建1400年と伝えられている善光寺は、あらゆる宗派が集まる無宗派の寺。善光寺を訪れた松尾芭蕉による「月影や四門四宗も只一つ」という一句は、そんな善光寺の特徴を月に託したものだ。また、善光寺は古くから女性の参拝も受け入れてきた。老若男女に開かれた、稀有な寺としての側面を持つ。そうした理由からか、古くから「遠くとも一度は詣れ善光寺」と、全国の多くの人たちの信仰と参拝を集めてきた。

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    江戸時代の中期を代表する木造建築として国宝に指定されている本堂。創建以来何度も火災に遭いつつ、そのたびに全国の信徒によって復興されてきた。現在の本堂は、1707年に再建されたもの。
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    本堂から山門を望む。山門は1750年の建立で、重要文化財。二層入母屋造りの、重厚な印象。楼上には「善光寺」と書かれた額を掲げるが、これは3文字の中に鳩が5羽隠されている「鳩字の額」と呼ばれている。
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    仁王門をくぐり、山門まで続く仲見世には土産物店や旅館が軒を連ね、にぎやかな雰囲気。長野盆地の際に位置する善光寺。間近に迫る山が、立派な山門の背景となり美しい景色を作る。
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善光寺は、先に触れた松尾芭蕉を始めとする文人墨客との縁が深いことでも知られる。小林一茶は「春風や牛に引かれて善光寺」「開帳に逢ふや雀もおや子連」と詠んだ。なお「牛に引かれて」とあるのは、老婆が逃げる牛を追って善光寺に導かれたという有名な昔話に端緒を持つ一句。「開帳」は、7年に1度の「前立本尊御開帳」のこと。本尊の代わりとなる前立本尊が開帳される盛儀で、とりわけ多くの参拝者が訪れる。

堂々たる国宝の本殿、上れば善光寺平を一望できる重要文化財の山門、高村光雲とその弟子米原雲海による仁王像が両脇を固める仁王門など、威容を誇る建築も見どころ。今は信仰の場として、そして長野を代表する観光地として、年間600万人もの人々を集めている。

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    善光寺の周辺には宿坊が立ち並び、格調高い雰囲気を醸し出している。よく手入れされた植栽も、街並みに落ち着きを与える。静かなたたずまいの中に凛とした空気を感じる。
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伝統の七味で攻める

そんな善光寺の表参道沿いには、参拝者が土産を買う店々が、古くから数多くのれんを掲げてきた。七味唐辛子で知られる八幡屋礒五郎はその代表格だ。

同店の始まりは、江戸時代中期の1736年に、善光寺の堂庭で七味唐辛子を売り出したこと。もともとは江戸の街で人気を博していた七味唐辛子を、信州でも集めやすい材料に一部入れ替えることで、独自の味を作った。今に至るまで続くその材料は、唐辛子、山椒、麻種、胡麻、陳皮、紫蘇、生姜。八幡屋礒五郎では昔からの材料と配合を連綿と継承。同店の七味唐辛子は信州の名物として広く知られるようになった。

現在の八幡屋礒五郎では、実にバリエーション豊かな七味唐辛子を販売する。定番の「七味唐からし」の他、「ゆず七味」や「焙煎一味」、エスニックの「七味ガラム・マサラ」、ラーメンとの相性が引き立つ「拉麺七味」など異色の商品もそろう。さらには七味由来の素材を混ぜ込んだマカロンやチョコレート、ジェラートも人気だ。

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    八幡屋礒五郎の本店は、仁王門を出てすぐ、表参道に面した場所に立地。9代目を数える現社長の室賀栄助氏は、伝統を守りつつ時代に即した挑戦を続ける気鋭の経営者。八幡屋礒五郎の新しい道を開拓する。
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    八幡屋礒五郎本店の軒先にかかる唐辛子のオブジェと、昔からの看板。「信
    州善光寺御高札前 名物 七味唐からし 根元 八幡屋礒五郎」と記す。「根元」とは、元祖という意味。
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    唐辛子を大きく描いた缶のデザインは定番だが、その裏の絵柄は実は数種類ある。こちらは、本店・善光寺境内地限定の絵柄。善光寺といえば「牛に引かれて」。布を引っ掛けた牛を追った老婆が善光寺に導かれた、という逸話を描く
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「ここ15年ほど、社会全体で食へのこだわりが強まったと思いますが、それに合わせ、さまざまな調合を行ってきました」と語るのは、2004年から社長を務める室賀栄助氏。八幡屋礒五郎の9代目だ。

また「10年ほど前から洋のスイーツに取り組み、マカロンやチョコレートを開発しました。スイーツでは、唐辛子、紫蘇、山椒など、七味唐辛子の材料となる素材一つひとつをフレーバーとして使用しています。それぞれの素材の魅力を味わっていただきたいのです」と話す。280年以上の長きにわたり代々受け継がれてきた味を守りつつ、攻めの姿勢で七味唐辛子の可能性を広げ続ける。

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    大正時代に建てられた中澤時計本店は国の登録有形文化財。
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    趣のあるたたずまいの建物が立ち並ぶ善光寺の表参道。
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    表参道から十夜会の提灯が下がる善光寺の入り口を見る。
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    TEA ROOM 藤屋の前にはFUJI ROYALのコーヒーミルが。
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    小布施町の老舗菓子店、竹風堂の善光寺大門店も軒を連ねる。
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    仁王門の外の表参道には石畳が敷かれ、すっきりと美しい景色。
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栗と北斎の町、小布施

善光寺と同じ長野盆地にあり、善光寺から車を30分ほど北東に走らせたあたりに位置する小布施町。長野県でもっとも小さな町で、半径2㎞の中に全ての集落が入ると言われている。その小さな町に全国から観光客を集めているのが、「小布施栗」と「葛飾北斎」だ。秋になると町は多くの人々でにぎわいを見せる。

小布施の栗は室町時代、現在から約600年前、丹波国から取り寄せて植えたのが始まりと言われている。この地の土壌が栗の栽培に適しており、徐々に上質な栗の産地として知られるようになったのだ。特に、江戸時代にこの地を治めていた松代藩が1820年から毎年秋、将軍家に献上していたことで、小布施栗の名は天下に広まった。

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    小布施といえば、栗。小布施の栗は室町時代に丹波国から伝わったと言われている。栗の栽培に適した土壌で、次第にその上質さが全国的に知られるように。今は老舗が作る栗の銘菓を求め、多くの人がこの地に集まる。
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    小布施町は、歴史的な街並みでも知られる観光地。この町の象徴である北斎館の一帯は特に整備され、この地で北斎のパトロンとなった豪農、高井鴻山(こうざん)の記念館など趣ある建物が点在する。
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このような栗を用いた栗ようかんや栗かの子などの銘菓は、この地に足を運ぶ観光客の最大の楽しみとなっている。

小布施で江戸末期に創業した桜井甘精堂は200年以上の歴史を持つ、この地随一の老舗栗菓子店。初祖の桜井幾右衛門が1808年に栗落雁を作ったのが小布施の栗菓子の最初と言われており、その約10年後に栗ようかんを作った弟の武右衛門が桜井甘精堂の初代となった。国産の栗、上質な砂糖、寒天だけを用いて作る「純栗ようかん」は武右衛門の時代から引き継がれている、同店伝統の一品である。

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    桜井甘精堂は小布施でもっとも古い栗菓子店。1808年に栗落雁を作ったのが始まりと言われる。「栗のおいしさを、まっすぐに、お客様にお届けしたい」という思いは200年、変わらない。
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    栗落雁は加賀藩の御用となったほか、松代藩から将軍家への献上品にも。さらに京都の伏見宮家から、裏菊御紋章を付けた栗落雁の注文を拝受するなど、高貴な人々からも高い評価を得ていた。現在、栗落雁の製造は行っていない。
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    竹風堂の本店の前には、栗の木が茂る。江戸時代に小布施陣屋が置かれていた場所が本店の敷地となっているという、歴史あるエリアに店を構える。
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    「栗菓子という食文化は地域の文化、歴史、芸術などとの調和が欠かせない」という理念を持つ竹風堂。堂々たる額からも、その誇りが感じられる。
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竹風堂もまた、小布施で多くのお客を集めている栗菓子の老舗だ。栗ようかんや栗かの子、初代が創製して100余年となる落雁など昔ながらの味を守りながら、12年前に発売した「どら焼山」もヒット商品として定着。老舗としての誇りと技を大切に、よりおいしい栗菓子の開発に情熱をかける。

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    竹風堂随一の人気商品「どら焼山」。しっとりとした皮と、甘さ控えめの栗
    粒餡が上品なバランスを作り出す。篆字の「山」の焼き印が目印。
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    栗餡と栗粒を練り合わせて蒸して作る栗蒸しようかん「くりづと」。練りようかんとは異なる、ほどよくもっちりとした食感が特徴。秋から初夏までの期間限定の商品。
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小布施町のもう一つの財産である葛飾北斎は、晩年の4年間、この地に在住。1842年、江戸での絵の制作が制限された北斎は、83歳にして地元の豪農の招きに応じて小布施町を訪れたと言われている。

木版画のイメージが強い北斎だが、小布施町には数々の肉筆画が残っている。そんな肉筆画を集めた美術館が北斎館だ。北斎の作品は地元の町民により所有されているものも少なくなかったが、その散逸を防ぐ目的もあり、1976年に開館した。これが起爆剤となり、小布施町は人気観光地として知られるようになった。

北斎の作品は、美術館の外にも残っている。特に北斎の画業の集大成とも呼べるのが、岩松院本堂大間の天井絵「八方睨み鳳凰図」。この絵を手がけた時、北斎は88歳。力みなぎるこの作品からは、老いてもなお、精力的に絵を追求し続ける北斎の情熱が感じられる。

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    晩年の4年間を小布施で過ごした葛飾北斎。岩松院本堂大間の天井絵「八方睨み鳳凰図」は、北斎88歳の時の作品。力強い筆致は年老いても衰えることがなく、むしろ鬼気迫る力を宿している。
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    岩松院は戦国武将の福島正則の霊廟(れいびょう)のある寺。北斎の天井画でもっともよく知られる寺院だが、小林一茶とも縁があり、同寺にて「やせ蛙まけるな一茶これにあり」と詠んだ。
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※『Nile’s NILE』2020年11月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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