1970年石川県生まれ。大学在学中に「日本料理 銭屋」創業者が急逝、実家を継ぐことを決意し、料理人を目指す。「京都𠮷兆」での修業を経て戻り、2000年から料理長。2008年代表取締役に就任。
掃除一筋に2年の修業
実は私、先代の父と一緒に仕事をしたことがないんです。料理人になる気もまったくなかった。それが大学4年の時に父が急死して一転。アメリカの大学への留学を断念し、家業を継ぐことを決意しました。そしてまずは修業と京都𠮷兆さんへ。でも私はそれまで包丁を握ったことすらなく、𠮷兆でも料理をさせてもらえなかった。 「君が本来勉強するべきは銭屋の料理だ。うちでは他のことを勉強しなさい」と言われ、掃除ばかりしていました。もちろん当時は、カチンときましたが、今となっては「ありがたかったなぁ」と思います。というのも掃除は、単にきれいにするのではなく、店を整えてお客様をお迎えする準備をするということ。料理の仕込みをするのと同じだからです。それにだんだんきれいになっていくと楽しいし、気持ちもいい。ある日、玄関の掃除をしていた時に支配人とこんな話をしました。
「どうして𠮷兆に来たの?」
「日本一の料理屋さんで勉強させてもらいたいと思ったからです」
「そうか、じゃあ玄関番(掃除)も日本一にならんといかんね」
これほど強く心に突き刺さった言葉はありません。その教えを胸に帰郷した2年後から、銭屋で本格的な料理修業が始まりました。
毎日届く超新鮮な野菜
野菜の鮮度って、産地の遠い・近いで、意外と差が出るんです。だから新鮮さにこだわると、やはり地物が中心になりますね。プラス、全部というわけにはいきませんが、できるだけオーガニックのものを求めています。
とりわけ蓮根とカブラは、絶対に地物と決めています。蓮根については完全にオーガニックで育てている畑から直接いただいて。脱サラで農業を始めた青年が、すごくいい蓮根を作ってくれるんです。あとカブラも、地元の知り合いが作っているものをね。
どちらも正真正銘の朝どれで、「今朝、掘ってきました」という新鮮なもの。めちゃくちゃぬれていて、泥のついたのが昼過ぎに届きます。新鮮の極致ですよね。
銭屋の魚市場は全国の海
金沢の豊かな食文化を支える一つの要素は、食材が豊富なことです。加賀野菜もそうですし、能登牛、日本海の海の幸など、おいしいものを数え上げたらキリがないくらいです。
でも「季節のおいしい食材を使う」のが私どものポリシーですから、地物であることにこだわりはありません。特に魚は地元の魚屋に加えて、富山の氷見、鯛や鱧が旨い瀬戸内、東京の豊洲、京都、大阪、福岡、北海道……日本の海全域が市場です。それだけに輸送には気を使います。例えば福岡で朝競り落とした魚を業者に飛行機で送ってもらい、僕らが小松空港でピックアップする、なんてこともときどきあるくらい。すべてはお客様の膳に一番おいしい状態で供するためなのです。
1品目は鰤のお造り。山葵だけではなく醤油をかけた大根おろしをたっぷりのせていただくのが銭屋流だ。 「今でこそ大根は通年ありますが、もともとは冬野菜。寒鰤との相性は抜群です。脂がのって旨いんですが、山葵だけだとどうしてもしつこくなる。とはいえ季節ものとして、『食べた』と満足する実感もほしい。大根おろしがあれば、3切れで濃厚さとさっぱり感の両方を堪能いただけます」
2品目は俵形の蟹しんじょの椀。炭火でさっとあぶったズワイガニの脚と柚子が添えられている。出汁は鰹と昆布の一番出汁。「お客様が来る1時間半ほど前から鰹節を削り始めて、席につかれるタイミングで出汁をひく」。また、つなぎの魚のすり身は、しんじょの形が崩れないギリギリのところまで少なくし“蟹を食べている感”を強めている。心を込めて旨さのピークを極めるのが銭屋の料理哲学だ。
これら二品はいわば「冬の定番」。鰤と蟹は北陸の冬を代表する食材であり、同時に「焼くこともあるが、やはり向付(むこうづけ)と椀盛は料理屋が一番味わってほしい料理」だという。
加えて器に注目されたし。造里の器は小林一三に薫陶を受け、尾形乾山の写しでは史上ナンバーワンの上手とたたえられた八代白井半七の作。椀は、金沢の漆芸文化を切り開き、その名を世界に広めた蒔絵師、清瀬一光(いっこう)の名品だ。「まだまだ先代の買い集めたものが多い」と言うが、2代目が地元の古美術商や海外のギャラリーなどで求めたものが少しずつ増えている。
「京都𠮷兆での修業時代、器はもちろん、座敷を掃除したお陰で、掛け軸や調度品もたくさん見られました。それも国宝・重要文化財級の美術品ばかり。ずいぶん勉強させてもらいました」
と振り返る髙木氏は今、将来を見据えて、例えば海外のトップシェフとのイベントに参加したり、食のベンチャーを立ち上げたり、若いアーティストと組んで食器を作ったりなど、新しい仕事にも精力的に取り組む。銭屋を核とする“日本料理店の器”は、どこまで広がりを見せるのか。楽しみである。
●日本料理 銭屋
石川県金沢市片町2-29-7
TEL076-233-3331
営業時間12:00~13:00(L.O.)
17:30~19:30(L.O.)日曜不定休
※『Nile’s NILE』2020年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

