加賀の冬は旨い 日本料理 銭屋

金沢の「日本料理 銭屋」が2020年、創立50年を迎える。髙木慎一朗氏は2代目だ。店の礎を築いた父の加賀料理の味わい、旨さを盛る一皿、一椀(いちわん)の造形美……その伝統を踏襲しつつ、新しい挑戦を続けている。髙木氏は言う、「新しいことをやらないと、新しい伝統は生まれない」と。

Photo Masahiro Goda Text Junko Chiba

金沢の「日本料理 銭屋」が2020年、創立50年を迎える。髙木慎一朗氏は2代目だ。店の礎を築いた父の加賀料理の味わい、旨さを盛る一皿、一椀(いちわん)の造形美……その伝統を踏襲しつつ、新しい挑戦を続けている。髙木氏は言う、「新しいことをやらないと、新しい伝統は生まれない」と。

髙木慎一朗(たかぎ・しんいちろう)
1970年石川県生まれ。大学在学中に「日本料理 銭屋」創業者が急逝、実家を継ぐことを決意し、料理人を目指す。「京都𠮷兆」での修業を経て戻り、2000年から料理長。2008年代表取締役に就任。

掃除一筋に2年の修業

実は私、先代の父と一緒に仕事をしたことがないんです。料理人になる気もまったくなかった。それが大学4年の時に父が急死して一転。アメリカの大学への留学を断念し、家業を継ぐことを決意しました。そしてまずは修業と京都𠮷兆さんへ。でも私はそれまで包丁を握ったことすらなく、𠮷兆でも料理をさせてもらえなかった。 「君が本来勉強するべきは銭屋の料理だ。うちでは他のことを勉強しなさい」と言われ、掃除ばかりしていました。もちろん当時は、カチンときましたが、今となっては「ありがたかったなぁ」と思います。というのも掃除は、単にきれいにするのではなく、店を整えてお客様をお迎えする準備をするということ。料理の仕込みをするのと同じだからです。それにだんだんきれいになっていくと楽しいし、気持ちもいい。ある日、玄関の掃除をしていた時に支配人とこんな話をしました。

「どうして𠮷兆に来たの?」
「日本一の料理屋さんで勉強させてもらいたいと思ったからです」
「そうか、じゃあ玄関番(掃除)も日本一にならんといかんね」

これほど強く心に突き刺さった言葉はありません。その教えを胸に帰郷した2年後から、銭屋で本格的な料理修業が始まりました。

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毎日届く超新鮮な野菜

野菜の鮮度って、産地の遠い・近いで、意外と差が出るんです。だから新鮮さにこだわると、やはり地物が中心になりますね。プラス、全部というわけにはいきませんが、できるだけオーガニックのものを求めています。

とりわけ蓮根とカブラは、絶対に地物と決めています。蓮根については完全にオーガニックで育てている畑から直接いただいて。脱サラで農業を始めた青年が、すごくいい蓮根を作ってくれるんです。あとカブラも、地元の知り合いが作っているものをね。

どちらも正真正銘の朝どれで、「今朝、掘ってきました」という新鮮なもの。めちゃくちゃぬれていて、泥のついたのが昼過ぎに届きます。新鮮の極致ですよね。

鰤は、古来「能登一の漁港」と言われた宇出津(うしつ)港の定置網で揚がったもの。兵庫県伊丹市に移窯し、数々の名品を生み出した八代白井半七の器とともに、目にも旨さを引き立てる。

銭屋の魚市場は全国の海

金沢の豊かな食文化を支える一つの要素は、食材が豊富なことです。加賀野菜もそうですし、能登牛、日本海の海の幸など、おいしいものを数え上げたらキリがないくらいです。

でも「季節のおいしい食材を使う」のが私どものポリシーですから、地物であることにこだわりはありません。特に魚は地元の魚屋に加えて、富山の氷見、鯛や鱧が旨い瀬戸内、東京の豊洲、京都、大阪、福岡、北海道……日本の海全域が市場です。それだけに輸送には気を使います。例えば福岡で朝競り落とした魚を業者に飛行機で送ってもらい、僕らが小松空港でピックアップする、なんてこともときどきあるくらい。すべてはお客様の膳に一番おいしい状態で供するためなのです。

金沢湾でとれたズワイガニ。しんじょといえどもつなぎの魚のすり身が限りなくゼロに近いのか、蟹の身の存在感に圧倒される逸品だ。器は加賀漆器、料理は加賀料理の伝統を今に受け継ぐ。

1品目は鰤のお造り。山葵だけではなく醤油をかけた大根おろしをたっぷりのせていただくのが銭屋流だ。 「今でこそ大根は通年ありますが、もともとは冬野菜。寒鰤との相性は抜群です。脂がのって旨いんですが、山葵だけだとどうしてもしつこくなる。とはいえ季節ものとして、『食べた』と満足する実感もほしい。大根おろしがあれば、3切れで濃厚さとさっぱり感の両方を堪能いただけます」

2品目は俵形の蟹しんじょの椀。炭火でさっとあぶったズワイガニの脚と柚子が添えられている。出汁は鰹と昆布の一番出汁。「お客様が来る1時間半ほど前から鰹節を削り始めて、席につかれるタイミングで出汁をひく」。また、つなぎの魚のすり身は、しんじょの形が崩れないギリギリのところまで少なくし“蟹を食べている感”を強めている。心を込めて旨さのピークを極めるのが銭屋の料理哲学だ。

これら二品はいわば「冬の定番」。鰤と蟹は北陸の冬を代表する食材であり、同時に「焼くこともあるが、やはり向付(むこうづけ)と椀盛は料理屋が一番味わってほしい料理」だという。

加えて器に注目されたし。造里の器は小林一三に薫陶を受け、尾形乾山の写しでは史上ナンバーワンの上手とたたえられた八代白井半七の作。椀は、金沢の漆芸文化を切り開き、その名を世界に広めた蒔絵師、清瀬一光(いっこう)の名品だ。「まだまだ先代の買い集めたものが多い」と言うが、2代目が地元の古美術商や海外のギャラリーなどで求めたものが少しずつ増えている。

「京都𠮷兆での修業時代、器はもちろん、座敷を掃除したお陰で、掛け軸や調度品もたくさん見られました。それも国宝・重要文化財級の美術品ばかり。ずいぶん勉強させてもらいました」

と振り返る髙木氏は今、将来を見据えて、例えば海外のトップシェフとのイベントに参加したり、食のベンチャーを立ち上げたり、若いアーティストと組んで食器を作ったりなど、新しい仕事にも精力的に取り組む。銭屋を核とする“日本料理店の器”は、どこまで広がりを見せるのか。楽しみである。

●日本料理 銭屋
石川県金沢市片町2-29-7
TEL076-233-3331
営業時間12:00~13:00(L.O.)
17:30~19:30(L.O.)日曜不定休

※『Nile’s NILE』2020年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
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