東京を代表するホテルの一つであるパレスホテル東京。そのホテル内に、フランス料理界の巨匠、アラン・デュカス氏設立のデュカス・パリとパートナーシップを組んだレストラン「エステール」がオープンした。体にも環境にも優しい料理を作る、斬新なコンセプトの同店は、若きシェフ、マルタン・ピタルク・パロマー氏が厨房を率いる。
1992年フランス・ロット生まれ。星付きのレストランを経て、「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」に。ロンドン「アラン・デュカス・アット・ザ・ドーチェスター」にてエグゼクティブ・スーシェフに。2019年に「エステール」のシェフに就任。
人間にも環境にも優しい料理
今回紹介した「埼玉産の野菜とそのジュ ル・カフェ・アラン・デュカスのコーヒー風味」は、野菜とコーヒーのハーモニーを楽しむ一皿です。ニンジンとコーヒーの組み合わせで全体をまとめています。「ニンジンとコーヒー」と聞くと、驚かれるかもしれません。この組み合わせは、前の職場でひらめいたものです。もともと私はコーヒーが大好きで、休憩時間ごとに飲んでいたのですが、ふと手元を見たら生のニンジンがあった。かじってみたところコーヒーと風味の相性が抜群だったのです!
この料理では、仕上げにコールドプレスで抽出したニンジンのピュアなジュースを流し、エスプレッソのコーヒーかすを散らしています。なお野菜は、埼玉で出会った農家が作る味の濃いものを11種類用いています。調理に際しては、レンコンをアメリカンコーヒーで火入れしたり、ビーツをコーヒー豆入りの岩塩で包み焼きにするなど、随所でコーヒーを使用しています。
野菜にフォーカスしたり、コーヒーかすを料理に使うなど、健康や食材ロス軽減を強く意識するのがこのレストランの特徴です。体にも地球環境にも優しい。かつ、今までにないおいしさがある。そんな、新時代の料理をご提供していきたいと思っています。
鴨は父との思い出の食材
私はフランスの南西部に位置するロットという自然豊かな場所で生まれ育ちました。父は料理が大好きで、料理人ではなかったのですが、台所でよく料理を作ってくれました。そんな父を手伝ううちに、私自身も料理が大好きになっていったのです。
父親が作ってくれた料理で特に印象に残っているのが、フォアグラを詰めた鴨のロースト。凝った料理に聞こえますか?でも私の家では、鴨はとても身近な食材でした。なにしろ、父が料理で使うための鴨を庭で飼っていたのです。なので、鴨料理は私にとって家族との思い出の味。鴨は、特別な食材なのです。冬のメニューに載せているのは、野生の国産の青首鴨。飼育のものもジビエも大好きです。
すり鉢はエステールの厨房に欠かせない道具
日本料理でおなじみのすり鉢ですが、エステールの厨房でも大活躍しています。食材の味をピュアに表現するために、野菜などをすりつぶしたピュレをほぼすべての料理に用いていますが、そのピュレを作る際に欠かせません。ピュレをミキサーで作ると熱で食材本来の風味が損なわれ、また空気も含むので風味が薄まります。その点、すり鉢は、より密度が高いピュレを作ることができる。油脂などに頼らない、ナチュラルで健康に優しい料理を旨とするエステールでは、食材の風味を最大に生かすことで、料理にメリハリを作り出します。そんな料理を可能にするのが、すり鉢なのです。
パリの「プラザ・アテネ」にあるアラン・デュカスのレストランでも、すり鉢は使っており、私もそこで働いていた時に使い方をマスターしました。
今ではエステールの日本人スタッフに、フランス人である私が、すり鉢の使い方を教えることもあるんですよ(笑)。
2019年の11月、丸の内のパレスホテル東京内にオープンした「エステール」。その料理の特徴は、日本の気候風土を存分に反映したナチュラルな料理を、新時代の技法と思想で表現する点だ。
料理では野菜を多用するなど健康を強く意識し、新しい手法も多く活用している。例えば、野菜や魚介類から静かに抽出したエキスを煮詰めてソースを作ったり、風味が濃厚な野菜のピュレを料理に添えることで、インパクトがありながらも、油脂や糖分の使用を徹底的に抑えた皿を構築。すでに世にある「ヘルシーなフランス料理」とは一線を画す、技術の根本から練り直した品々を作り上げる。
さらに、今の時代に欠かせないテーマである“環境への優しさ”も料理で実現。例えば野菜であれば皮も使いきってまるごと料理に生かすなど、食材を無駄にしない意識を隅々まで行き渡らせている。あくまでもハイレベルな味を追求しながら、人にも地球にも優しい料理を追求する。
この斬新な料理を東京で展開すべく、アラン・デュカス氏からの信頼を得てシェフを任されているのが、若き27歳のマルタン・ピタルク・パロマー氏だ。ピタルク・パロマー氏は、パリの「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」を経て、25歳でロンドンの「アラン・デュカス・アット・ザ・ドーチェスター」でエグゼクティブ・スーシェフを務めた。
「運が良かったのです。ただし、常に厨房の中で200%の力を出し、人の10倍は努力してきた自信もあります」
そんなストイックさと、素材や料理に対する鋭いセンスを備えているピタルク・パロマー氏。人柄も実にポジティブで、周囲を明るくする魅力を持つ。今回、新コンセプトのレストランのシェフという難しい役を務めるにあたっても、プレッシャーより、挑戦に対する喜びの方が優っているようだ。「エステールでは、まったく新しい料理を作りたい」と目を輝かせるピタルク・パロマー氏。
その開拓者精神と、料理に対するワクワクした気持ちが伝わってくるような、心を打ち、かつ今まで食べたことのないような料理が展開されている。
● エステール
東京都千代田区丸の内1-1-1 パレスホテル東京6F
TEL 03-3211-5317
営業時間 11:30~14:00(L.O.) / 18:00~21:30(L.O.)
不定休
※『Nile’s NILE』2020年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

