ターナーの記憶が息づく街、Margate

イギリスの代表的な風景画家として知られるジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー。彼の名を冠した美術館がマーゲイトにある。この海辺の街は「ターナー・コンテンポラリー」のオープン以来、若い芸術家が移り住み、アートが身近にあるエリアとして注目を集めている。

Photo Chiyoshi Sugawara Text Chiyoshi Sugawara

イギリスの代表的な風景画家として知られるジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー。彼の名を冠した美術館がマーゲイトにある。この海辺の街は「ターナー・コンテンポラリー」のオープン以来、若い芸術家が移り住み、アートが身近にあるエリアとして注目を集めている。

ターナー・コンテンポラリーの前から見るハーバーアームと呼ばれる突堤。灯台横の銅製の像「シェル・レディ」は地元のアン・キャリントンによる作品で「ミセス・ブース像」とも呼ばれる。

車体に「ハイスピード」と誇らしげに大書した列車は、ロンドンのセント・パンクラス駅を出ておよそ90分でラムズゲイトの駅に着いた。ここからバスでマーゲイトに向かう。本来なら列車でマーゲイトに直行できるのだが、現在は駅舎改修のため列車は止まらない。しかしビクトリアン・ハウスが並ぶブロードステアーズの街並みを車窓に眺めながら束の間のバス旅も悪くない。

ラムズゲイトの手前の駅、カンタベリー・ウェストで日本人の母と娘が下車した。毎年100名もの日本人留学生が学ぶケント大学があり、カズオ・イシグロも学んだという。他にカンタベリー・クライスト・チャーチ大学や世界遺産のカンタベリー大聖堂でも知られる歴史的な古都である。

風の強い朝だった。美しい砂浜が広がり古い街並みを残すマーゲイトは、ラムズゲイトやブロードステアーズとともにロンドンっ子に人気のリゾートタウンとしてにぎわっていたが、1970年代の不況が街に影を落とした。それを一変させ、街とケント州東部に再び活気を取り戻したのが、2011年にオープンした美術館「ターナー・コンテンポラリー」であった。

海を望み、古い街並みとは対照的なキューブ状のモダンな建物はデービッド・チッパーフィールドのデザインにより、名前はマーゲイトに縁の深いイギリスを代表する風景画家、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーにちなんでいる。

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    オールドタウンの入り口にある食品や雑貨のマーケット。中には「ハーバー・カフェバーキッチン」もあり、観光客でにぎわう。
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    オールドタウンの小さな広場。古い面影を残す建物はアパートメントなのか、いくつかの部屋が売りに出されていた。
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ロンドンのコベント・ガーデンで理髪師の子として生まれたターナーは、母親が精神疾患を持っていたこともあり十分な学校教育を受けていなかった。11歳のとき叔父の住むマーゲイトを初めて訪れ学校に通い、以後しばしばこの街を訪れた。14歳の頃、風景画家のトーマス・マートンのもとで絵画の基礎を学び、ロイヤル・アカデミー付属美術学校に入学。24歳でアカデミーの準会員、26歳で正会員になり、パトロンにも恵まれ「カレーの桟橋」などロマン主義的な代表作となる作品を残す。

1819年のイタリア旅行でその陽光に魅了され、多くのスケッチを描き、とりわけベネチアに引かれ、その後も訪問、大きな転機となる。その10年後、気難しいターナーの助手としてサポートしていた父親の他界は衝撃となった。1833年、独身のターナーは夫を亡くしたソフィア・ブースと知り合い生涯をともにした。

晩年のターナーはマーゲイトのゲストハウスやチェルシーでブース夫人と過ごしたと言われ、ゲストハウスの跡に「ターナー・コンテンポラリー」が建てられ、広い海側の窓からガラス越しにターナーが眺めた海を望むことができる。

ターナーは1851年に死去するが、手元の主な作品をすべて国家に遺贈し、これらの作品はロンドンのナショナル・ギャラリーやテート・ギャラリーに収蔵されている。

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    右下の文字は作者の名前だろうか。オールド・ケント・マーケットの横の壁に描かれたウォールアートは巨大なビルボードにも見えた。
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    強い風で砂に埋まりそうなビーチの監視事務所。左に見える砂浜につくられた大きなタイド・スイミングプールも砂に埋もれているようだ。
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ターナー・コンテンポラリーのオープンは、この地にルネサンスとも言える変革をもたらした。350万人を超す入場者と7000万ポンド以上の経済効果を町と州にもたらしたのだ。入場は無料で、運営は個人や財団の寄付によっているにもかかわらず、である。

主要となる展示は企画展で、今年は5月3日まで「アメリカ南部の芸術と抵抗」がテーマの展示が行われているが、2019年度ターナー賞展では14万という過去最高の入場者を記録し、連動した祭典「マーゲイト・ナウ」には500人ものアーティストが参加し、音楽、ダンス、展示などなど60ものイベントが市内で繰り広げられた。

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    展示中の「We Will Walk=アメリカ南部の芸術と抵抗」においても、ターナー・コンテンポラリーの特徴であるマルチメディアなど多様な表現方法がとられている。
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    2階展示場エリアから、広いガラス窓越しにマーゲイトの海が望める。それはターナーの追体験でもある。
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    ターナー・コンテンポラリーは入場料は無料で、さらに無料のガイドツアーに参加することもできる。
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    アラバマ州ニューバーンのディナー・ヤングとテネシー州メンフィスのホーキンス・ボールデン(故人)による「無題」の作品群。いずれも廃物を利用したもの。
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その活況の背景には、美術館のオープン以来、若い芸術家が移り住むようになり、コミュニティーが形成されていたことがある。一方、美術館とカンタベリー・クライスト・チャーチ大学との共同プロジェクトで毎年行われている「ポートフォリオ」は、地域の生徒、学生、教師、コミュニティーグループを対象にしたアートコンペティションにより、若者や子どもたちと芸術の距離を縮め、豊かな感性を育んでいる。

ビーチ沿いの遊歩道で、愛犬テスと散歩中のスティーブさんに会った。65歳でウェブデザインが仕事だという。「ロンドン生まれだが、きれいな空気を求めて35年前に引っ越してきた。遠来の訪問者にこの街本来の姿を見てもらえず残念だ。美しいマーゲイトの写真を送るよ」と言い残し、テスに引かれるように灯台の方に向かっていった。風はやまなかったが青空が少し雲間から見えた。

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    アラバマ州のジーズベンドと呼ばれる小さなコミュニティーの婦人たちによって、主に1960年代に手縫いでつくられたキルトの数々の一部。外部の人たちによって収集されたもの。
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    ジョー・ミンターによる「ウォーターホールのキャメル」は1995年の作品で、さまざまな経緯を経てサンフランシスコのファインアート・ミュージアムに収蔵された。
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※『Nile’s NILE』2020年4月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
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アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
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