ミラノ・コルティナオリンピックの開幕2週間前、1月19日から21日までの日程で、ミラノでLVMHウォッチウィーク2026が開催された。LVMHグループによるこの新作発表エキシビションは、パンデミックが勃発した2020年に、停滞する時計業界の活性化を促すべくドバイで第1回が開催され、以降年に1度行われ、今年7回目を迎えた。今やLVMHグループが擁するタイムピースのメゾンは9つを数えるまでに拡大し、いずれも見逃せない魅力を備えている。
9ブランドを列挙すると、ルイ・ヴィトン、ダニエル・ロート、ジェラルド・ジェンタ、ブルガリ、ティファニー、ウブロ、ゼニス、タグ・ホイヤー、そしてクリエイティブなクロックブランドで、MB&Fとのコラボレーションでも知られるレペ1839。
ミラノのラグジュアリーなショッピングストリートとして知られるモンテナポレオーネ通りにある各ブランドのブティックなどを舞台に、新作が披露された。
新作腕時計を発表した各ブランドの動向を以下に挙げてみよう。
ルイ・ヴィトン
2014年に登場したカラフルなワールドタイマー「エスカル ワールドタイム」。フランス語で“寄港地”を意味する「エスカル」の名を冠した、このモデルからのDNAに新たな解釈を加え、2024年にコレクションへと発展させた「エスカル」コレクションから5つの新作が登場。
トゥールビヨン、ミニッツリピーターなどのハイウォッチメイキングに加え、エナメル、ミニアチュールペインティング、ギョーシェなどのサヴォワフェールと呼ばれる工芸性の高い伝統技法を惜しみなく投入し、一層ラグジュアリーに拡充が図られた。
文字盤の上側の大半をメタル素材でカバーし12時位置に時分表示の窓を設けた「タンブール コンバージェンス」は、昨年のデビュー作に続き、今年はRG製のカバー部分に波打ったような独創的でエレガントなギョーシェを施したモデルが登場。
ダニエル・ロート ジェラルド・ジェンタ
時計界のレジェンド、ダニエル・ロートとジェラルド・ジェンタのDNAを受け継ぐ2ブランドは、ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンの下で2023年に再始動以降、クリエーションのクオリティをどんどん進化させている。2025年11月のドバイ ウォッチウィークで新作を発表したばかりだったが、ミラノでも注目作をラインアップ。
ダニエル・ロートからは「エクストラ プラット ローズゴールド スケルトン」が登場。昨年のジュネーブ ウォッチグランプリのタイムオンリー部門でグランプリを受賞した「エクストラ プラット ローズゴールド」をスケルトナイズしたモデルで、機能美と仕上げの美しさを堪能できる。
ジェラルド・ジェンタからは、昨年11月にドバイで発表されたミニッツリピーターのクッション型のフォルムを踏襲しつつ、リピーター機能を排し、時刻表示に特化した「ジュネーブ」コレクションの2モデルを発表。RGとWGケースの2タイプが用意された。“マエストロ”ジェンタの偉業を踏まえ、ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンのアーティスティック・ディレクター、マチュー・エジによる再解釈が、デイリーユースも視野に入れた新たな魅力を生みだしている。
ブルガリ
今回のミラノでは、超薄型やコンプリケーションなどのハイウォッチメイキングは封印し、女性を意識したジュエリーとタイムピースとの融合を推進。古代コインをあしらった「ミラネーゼ モネーテ」、カフウォッチ「トゥボガス マンシェット」、シグネチャーのひとつであるスネークモチーフの「セルペンティ セドゥットーリ」のブレスレットタイプなどを発表。全てに小型の自社製機械式ムーブメントを搭載したことも、ブルガリのウォッチメイキングへのプライドを感じさせた。
ティファニー
2021年にLVMHグループ傘下となったティファニー。しばらくは特別なハイジュエリーウォッチに注力するスタンスを見せていたが、2025年にアイコニックな「ティファニー アトラス」を刷新。直径38㎜のSSケースに自動巻きキャリバーを搭載した、男性が日常使いできるモデルの展開もスタートさせた。LVMHウォッチウィークに2度目の参加となった1月のミラノでは、こうした流れを受け1866年に発表したストップウォッチをオマージュした「ティファニー タイマー」を発表。ラッカー仕上げによるティファニーブルーの文字盤には、バゲットカットダイヤモンドインデックスをセット。プラチナケースに、ゼニス製エル・プリメロCal.400をベースとするクロノグラフムーブメントを搭載。
このほか、真骨頂というべきハイジュエリーピース3モデルも発表された。
ウブロ
史上最高と称えられるテニスプレイヤー、ノバク・ジョコビッチとのコラボした「ビッグ・バン トゥールビヨン ノバク・ジョコビッチ GOATエディション」の3モデル、英国のデザイナー、サミュエル・ロスとのコラボ第4作となる「ビッグ・バン ウニコ SR_A」、初代「ビッグ・バン」のデザインを踏まえながら、自社開発・製造ムーブメント「ウニコ」を搭載した「ビッグ・バン オリジナル」4モデル、また新色となる透明感のあるコールブルーを纏った4モデルなど、今回も攻めたラインアップを発表したウブロ。ファッションデザイナー山本耀司とのコラボモデル第4作は、日本からの発案で企画されたとのことだが、好評を博しグローバル展開されることに。
ゼニス
1969年に多角形ベゼルで登場したオリジナルの「デファイ」のDNAを現代的に発展させた「デファイ」コレクションからの新作をそろえたゼニス。
ブラックセラミックケース&ブレスレットを採用した「デファイ スカイライン スケルトン」「デファイ スカイライン クロノグラフ」、RGケースにトゥールビヨンを搭載した「デファイ スカイライン トゥールビヨン」、また直径36㎜ケースのジェンダーレスな「デファイ スカイライン 36」も登場。1969年に発表された初期型の「デファイ」を着想源とする37㎜ケースで30気圧防水の「デファイ リバイバル A3643」も好感触だった。
タグ・ホイヤー
メゾンのシグネチャー「カレラ」コレクションから新作3型、計5モデルを発表。「カレラ」コレクション初となるスプリットセコンドクロノグラフモデル、1949年に誕生した潮汐周期表示機能を持ったセーリングウォッチ「シーファーラー」を再解釈したクロノグラフ、「カレラ クロノグラフ」からはブルー、グリーン、ブラックの3色が登場。
いずれのモデルも、2023年のコレクションリニューアル時に導入された、インナーゼル上までボックス状のサファイアクリスタルが覆う“グラスボックス”デザインが採用され、スポーティーさにヴィンテージなタッチが加えられた。
総評
LVMHグループ内の各メゾン間では、一部のムーブメントやコンポーネンツの供給等で協力体制はありつつも、各メゾンがそれぞれ独自の進化の方向性を見据えているように思える。そうでありながら、ルイ・ヴィトン、ダニエル・ロート、ジェラルド・ジェンタを手掛ける「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」の発展は目覚ましく、LVMHウォッチ部門のデレクターである若きジャン・アルノーの管轄下、ひとつの屋根の下にハイウォッチメイキングとサヴォワフェールを集結させ、歴史あるタイムピースのメゾンに優るとも劣らぬ取り組みが進んでいる。
この動きに、グループ傘下の各メゾンも刺激を受け、グループ全体としてレベルアップが進んでいる印象を、今回のミラノ新作から受けた。ブルガリ、ウブロ、ゼニス、タグ・ホイヤーは4月にジュネ―ブで開催されるウォッチ&ワンダーズにも参加するわけだが、そこでの新作にも期待が膨らむ。
現在、中国の経済停滞やトランプ関税の影響等もあって、スイス時計業界はあまり良好な状況とは言い難いが、その中でも攻めの姿勢を崩さずにいることが、次なるステージへとつながると信じたい。
まつあみ靖 まつあみ・やすし
1963年、島根県生まれ。87年、集英社入社。週刊プレイボーイ、PLAYBOY日本版編集部を経て、92年よりフリーに。時計、ファッション、音楽、インタビューなどの記事に携わる一方、音楽活動も展開中。著者に『ウォッチコンシェルジュ・メゾンガイド』(小学館)、『スーツが100ドルで売れる理由』(中経出版)ほか。

