京都から東京へ 銀座ふじやま

京都の料亭「高台寺和久傳」で総料理長を務め、45歳で独立。東京・銀座の中心地に自らの店を開業した藤山貴朗氏。伝統の高みを極め、新たな挑戦を始めた料理人は今、次なる目標を定めていた。オープンから1年を待たず『ミシュランガイド東京2020』で一つ星を獲得した、冬の「銀座ふじやま」を訪れた。

Photo Satoru Seki Text Rie Nakajima

京都の料亭「高台寺和久傳」で総料理長を務め、45歳で独立。東京・銀座の中心地に自らの店を開業した藤山貴朗氏。伝統の高みを極め、新たな挑戦を始めた料理人は今、次なる目標を定めていた。オープンから1年を待たず『ミシュランガイド東京2020』で一つ星を獲得した、冬の「銀座ふじやま」を訪れた。

藤山貴朗(ふじやま・たかお)
1973年京都府生まれ。18歳で割烹での料理修業を始め、24歳で和久傳へ。「室町和久傳」「高台寺和久傳」料理長、和久傳総料理長を務めた。2019年3月、「銀座ふじやま」をオープン。

京都の本物を銀座に

東京に店を出すにあたり、京都の本物の数寄屋造りの店を銀座の真ん中に出現させたいと思いました。それで、新築のビルへの入店でしたが、内装は京都の数寄屋大工さんにお願いしたのです。ただ、伝統の数寄屋造りに、現代のものや、自分の好きなものを取り入れたいと思いました。古材も使っていますが、「西洋の材を使って数寄屋を造る」というのがコンセプトです。

床柱は、知り合いで漆の木を自分で育てている塗師(ぬし)さんのお宅にお邪魔した時、漆を取り切って役目を終えた木が庭に置いてあったのを譲ってもらって、数寄屋大工さんに頼んでほぼそのまま床柱にしてもらいました。稲穂の飾りは、店でお出ししている丹後の米を使った僕の手作りです。カウンターはレッドウッド(杉)を使用し、木目が浮き出る“浮造り(うづくり)”にしてもらいました。石にもこだわっていて、カウンター室に置いているのは丹後の石で、床の間の柱の下の石は、貴船のものです。神社の橋に使われていた栗の古材をベンチにしたり、神主さんの笏(しゃく)の材料であるイチイを使ったりもしています。全体としては、洋木の持つ“ざんぐり”とした、独特の雰囲気があると思っています。料理とともに空間も楽しんでいただけたら、うれしいですね。

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旬の京食材を直送

間人(たいざ)ガニを含め、食材は今のところ京都を中心に西日本のものを使っています。和久傳にいた時からの生産者さんや仲買さんとのお付き合いがあり、今は物流もいいので、京都にいた頃とまったく変わらないくらい、東京でも食材を集めることができています。蟹を仕入れるにもやはり人脈は必要です。ズワイガニは、間人か、間人がなければ同じ漁場の津居山や浜坂などを使うのですが、その中で最も大きく、形のいい蟹を仕入れています。

京都では“コッペ”と呼ぶズワイガニの雌(セコや香箱とも)は、浜で釜茹でしたものを送ってもらいます。茹でる人によって味が変わるので、特定の仲買さんにお願いして、その方に茹でて直送してもらっています

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    間人港(京丹後市丹後町)で水揚げされた間人ガニのしゃぶしゃぶと焼き蟹。間人では5隻の船しか蟹漁をしておらず、水揚げ量も多くはないので貴重。中でも最初の競りにかけられる“一番蟹”は最も大物だ。
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    ふっくらと香ばしく焼き上げられた間人ガニの焼き蟹。シンプルだが自然な甘みが感じられ、カニの身の旨さが全身に染みわたる。鮮度、焼き加減ともにこれ以上ないと思わせる一品。
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特注の炭焼きで調理

冬の味覚の代表である蟹は、さまざまな調理法で丸ごと味わっていただいています。生の脚の身を、出汁にくぐらせてさっぱりと。焼き蟹は特注の炭焼きを使って、香ばしく焼き上げます。蟹味噌も焼くことで濃厚な香りが楽しめますよ。蟹味噌は最後まで堪能していただくために、蟹の身との蟹味噌あえに、高麗人参を添えたものもお出ししています。ときどき高麗人参をかじりながら食べていただくという趣向です。しゃぶしゃぶの後は、出汁を使って、ほっき貝や九条ねぎを加えた蟹のスープも味わっていただき、締めに親子丼の鶏肉を蟹に替えたような蟹玉丼か蟹雑炊を選んでいただけます。「少しずつ両方作ってよ」、というお客様もいらっしゃいますよ。

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    くわいチップ、菊菜と麩(ふ)の白あえに煎った松の実、銀杏(ぎんなん)と新からすみ、炊いた菊芋と蟹の身のオイル煮を盛り合わせた季節の八寸。
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    白子を裏ごしして、すくい豆腐を浮かべ、すり柚子を載せた白子のすりながし。食材を盛り込みすぎない潔さが「ふじやま」流。
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    京都ではコッペと呼ぶ雌の間人ガニ。その内子(卵巣)と外子(卵)、身を層にして、京都の飯尾醸造の酢を使ったゼリーで覆っている。
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    締めの蟹玉丼。蟹の旨みを卵で閉じ込め、ふんわりと仕上げた絶品。蟹しゃぶや焼き蟹をたくさん食べた後でも軽く平らげられる。
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濃厚な白子のスープに豆腐を浮かべた、滋味深い椀。「お椀で奇をてらうことはしません。お椀を飲んで季節を感じ、ほっとしてもらうのが、日本の文化だと思います」と藤山貴朗氏は言う。丁寧に作り込まれた八寸を堪能した後は、1.4㎏の堂々たる間人ガニの登場である。しゃぶしゃぶ用の透き通った身と、焼き蟹用の鮮やかな脚や蟹味噌は、息をのむ豪勢さ。

「京都の間人港で、その日、最初の競りにかけられる一番蟹を入手しています。夕方には発送してもらい、翌日の午前に着きますから、新鮮ですよ」

食材を生かし、シンプルに。繊細な料理もあれば、この蟹のように豪快な料理もある、緩急のある献立が、長年勤めた京都の料亭「和久傳」らしさであり、自身に根づくものだという。

「和久傳は特殊な店で、主は料理をしない女将(おかみ)です。だから料理に関しては、女将に意見を聞くことはあっても、基本的に料理長に任されています。料理人はおのおの、先輩に教わったり、自分で考えたりして、和久傳らしさを身につけます。だから、人が育つのです」

京都生まれ、京都育ち。18歳から板前割烹で働き始め、24歳で和久傳から声がかかった時は、「独立する前に2、3年、京都で最高の料亭を経験するのも悪くはない」というつもりだった。それが、27歳から室町和久傳の料理長を5年、32歳から高台寺和久傳の料理長を5年務め、総料理長となってから10年。20年以上を和久傳で過ごした。

「料理もおもてなしも、僕が経験したものとはレベルが違い過ぎてショックを受けました。若い頃から料理長を任せてもらい、たくさん恥もかきましたね。生意気だった自分に対して、女将が毎日、料理の出し方、言葉遣い、玄関の空気感まで、料亭のもてなしや文化を体当たりで教えてくださったことが財産になっています」

独立の場に東京を選んだのは、本当の挑戦がしたかったから。

「これからは、東日本の食材も使っていきたいですね。そのためには産地をめぐり、新たに人脈を築かなくてはいけません。それが今後の目標ですね」

●銀座ふじやま
東京都中央区銀座3-3-6 銀座モリタビル7F
TEL03-6263-2435
営業時間18:00~21:00(L.O.)不定休

※『Nile’s NILE』2020年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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