旦那衆に育てられた味 舞扇

「舞扇」は、京都人が、大切な客を連れて訪れる店だ。ステーキのような厚切り肉のしゃぶしゃぶや、季節を感じさせる伊勢海老の椀など、祇園らしい華やかさと遊び心あふれる料理を惜しみなく振る舞うのは、料理人の足立尚隆氏。京都の旦那衆に育てられ、磨かれた味を、次世代に伝えている。

Photo Satoru Seki Text Rie Nakajima

「舞扇」は、京都人が、大切な客を連れて訪れる店だ。ステーキのような厚切り肉のしゃぶしゃぶや、季節を感じさせる伊勢海老の椀など、祇園らしい華やかさと遊び心あふれる料理を惜しみなく振る舞うのは、料理人の足立尚隆氏。京都の旦那衆に育てられ、磨かれた味を、次世代に伝えている。

足立尚隆(あだち・ひさたか) 1966年京都府生まれ。幼少期から料理に興味を持ち、自然な流れで日本料理の道へ。京都の割烹店などで修業し、1997年に「舞扇」をオープン。一昨年には店内をリニューアルした。

20年、毎年漬けているからすみ

今年もからすみを漬けました。店を始めて以来、もう20年以上、この時期の恒例行事ですね。からすみは、まず血管をマチ針でつついて血抜きして1週間くらい塩に漬け、1日塩抜きをしたら、1週間、日本酒に漬けます。それから日中に店の屋上で天日干しにして、夜に冷蔵庫で保管するのを3、4週間続けます。この工程を1シーズンに2回繰り返して、1年分のからすみを作ります。きちんと天日干しにしないと、おいしくないので、屋上があるという立地に助けられていますね。ちょっとあぶって、お酒のつまみとしてお出ししています。

若い頃、魚の目利きを覚えるために、京都の中央市場でアルバイトをしていたことがあるんです。夜は割烹で修業して、朝は市場でアルバイト生活を3、4年続けました。ラクではありませんでしたが、魚は覚えられましたし、当時の市場の仲間たちが今は社長になっているので、魚介はいいものを仕入れさせてもらっています。

祝いの席を彩る華やかな器たち

お祝いごとなどでいらっしゃるお客様も多いので、器はそれにふさわしいものをそろえるようにしています。やはり京都なので、京焼が多いですね。おちょこや蓋つきの徳利は、永樂善五郎さんの作品。蓋があるので、開けた時に酒の香りが楽しめますよ。永樂さんの干支のおちょこも集めました。

お正月のお祝いで、お客様に年男がいたらそれでお出しするのですが、もう作られていないので貴重です。ベネチアグラスは、一昨年に店の改装のためにお休みをいただいて、2カ月間、ヨーロッパを回った時にベネチアで買ったもの。ガラスに斜めのラインが入っていて、飲み物を入れると透明になるのが面白いんです。よくできているし、華やかなので300個購入しました。

野菜は京野菜が一番!

野菜はほとんど京野菜を使っています。聖護院かぶに海老芋、小かぶもそうですね。京都は、土と水が野菜作りに適しているのだと思います。それに、農家の方がものすごく丁寧に、手間暇かけて育てています。一度、畑に訪ねた時、花のついているきゅうりやなすびをわけてほしいとお願いしたことがあるんです。でも、「小さいままじゃ出せないから、ちゃんとおいしくなるまで待ってほしい」と言われました。それだけ誇りを持っているのですね。代々農家をやっていて、その家の自慢の野菜作りの方法を守っている生産者さんも、減ってはいますがいらっしゃいますよ。

水はとても清らかな軟水です。京都の街には白山や比叡山などの水がすべて集まってくるので、地下には琵琶湖と同じくらいの水がめがあると言われています。店でも井戸水を使っています。京都の野菜で、京都で日本料理を作るには、京都の水が最も合うのです。

祇園四条・新橋通の路地裏に、料理人や卸売人など、プロが通う店がある。主は、京都生まれ、京都育ちの料理人、足立尚隆氏。京都人による、京都人のための料理屋として、22年間、この地に根を下ろしてきた。

「割烹なので、コースでお召し上がりになる方ばかりではありません。今日はこれを食べたい、という目当てのものが出せるようにと考えています」

根底にあるのは「お客様に喜んでもらいたい」という思い。名物の厚切り牛のしゃぶしゃぶは、見て驚き、食べて圧倒される「舞扇」らしい一品だ。

「次は、もっと喜んでいただきたい。ただ、そうなると毎日が戦いです。奇をてらいたいわけではないのですが、その中でフカヒレをすっぽんの出汁で炊いたり、ニシンのお造りを出したりと、珍しいものも出してます」

ステーキのような厚切り肉をしゃぶしゃぶで。出汁に入れ、浮かんできたら食べごろのレアだ。脂も浮かないきれいな出汁で、何枚でも食べたくなる。出汁は肉の筋でとったもの。食材を生かし切る術も旦那衆から教わった。

幼い頃は、料理上手な祖母がストーブで炊く黒豆が好きだった。小学6年生の時、タイムカプセルの中には、「料理人になりたい」という夢を書いて入れたという。西陣「天㐂」や割烹などで修業しながら、中央市場のアルバイトで魚の目利きを習得して、31歳で独立、「舞扇」を開店した。

「それからは、お客様に育てられましたね。昔の京都には、料理にも伝統文化にも詳しい、粋な旦那方がたくさんいました。海老の身をお出ししたら『脚はどうした』と聞かれ、『捨てました』と言うと、『あほか!』と叱られて。それからは、身をお造りにして、頭を焼いて、脚を唐揚げにして。最後まで食べ尽くしましたね、昔の方は。お造りでも、井戸水で研ぐと包丁の金臭さが消えるとお客様に教わり、ずっと実践しています」

伊勢海老の具足煮。漁が秋に解禁となる伊勢海老に、同じ時期においしくなる柿を合わせ、京都の白味噌で炊いたもの。食材をシンプルに調理しながら、見た目にも華やかで素直においしい「舞扇」ならではの料理だ。

今では、指摘してくる客はいなくなった。それなら今度は「次の世代のお客様に料理で伝えていきたい」と語る。

「外国のお客様にも喜んでいただきたくて、2階にゲストハウスを造りました」と、新たな試みにも積極的だ。

「京都のモノづくりは、真面目で新しいもの好き。基本は確実に大事にする」と足立氏。

そんな京都らしいサービス精神あふれる料理が味わえる店だ。

●舞扇
京都市東山区花見小路新門前西入
TEL075-525-3399
営業時間17:30~22:00(L.O.)
日曜定休

※『Nile’s NILE』2020年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

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真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
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アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
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