幻自在の料理人 新門前 米村

京都は祇園、東京は銀座に店を構えた人気店「レストランよねむら」の米村昌泰シェフが、25周年の節目に移転オープン。流行にとらわれず、シェフが好きなものと、ゲストに求められるものを提供する。枠にはまらない自由な空気をたたえながら、揺るぎない芯の通った、集大成といえる店である。

Photo Satoru Seki Text Rie Nakajima

京都は祇園、東京は銀座に店を構えた人気店「レストランよねむら」の米村昌泰シェフが、25周年の節目に移転オープン。流行にとらわれず、シェフが好きなものと、ゲストに求められるものを提供する。枠にはまらない自由な空気をたたえながら、揺るぎない芯の通った、集大成といえる店である。

米村昌泰(よねむら・まさやす)
1963年京都府生まれ。「北白川西洋膳所おくむら」などで修業を積み、1993年に「レストランよねむら」をオープン。2004年には東京に出店。2019年にそれまでの店を閉め「新門前 米村」をオープンした。

町家を改装して新装オープン

1993年に京都木屋町に「レストランよねむら」をオープンして、2001年に八坂鳥居前に移転し、2004年に東京・銀座にも出店しました。おかげさまで大変ご好評をいただきまして、年に364日くらい、必死に働く日々が続いていたのですが、人生も後半に差し掛かり、ふと「このままいつまでも続けられるわけがない、やめるなら今だ」と思い立ちました。そして、2018年中に銀座と八坂鳥居前の店を閉め、「次こそは自分が一番理想とする店を」という思いのもと、集大成といえる店作りに取りかかったのです。

骨董店が軒を連ねる新門前通の町家を借り、壁紙からすべて自分の好きなように改装して、2019年5月に「新門前 米村」をオープンしました。一枚板のカウンターとオープンキッチンが中心の店で、席数は前の店の40席から、自分の目が行き届く20席に減らしました。食材選びから調理、盛り付けまで、すべて自分が関わっています。京都は条例で細かい決まりがあるのですが、どうしても置きたかった暖炉も頑張って設置しました。もともとは韓国の李朝家具を扱っていたお店で、欄干などはあえて残しています。外観はほぼそのままですが、大きなショーウィンドーを生かして、季節のディスプレーを楽しんだりしています。

和の包丁を愛用しています

出刃包丁、フグ引き、鱧用、柳刃です。フランス料理ですが、僕は昔からこういう和の包丁を使わせてもらっていますね。そもそも和包丁、洋包丁という意識があまりなくて、なんでも使いやすいものを用いているという感覚です。京都で創業460年の歴史を持つ「有次」さんの包丁でも、洋包丁はあるのですが、そちらはあまり使っていません。刃が長くて大きいものは、使いにくいので選びませんね。

厨房にはまだたくさんあるのですが、フグ引きは、フグだけでなく魚を薄く切りたい時に使います。鱧用は鱧だけですね。店では、6月くらいから11月まで鱧を提供しています。京都の鱧は夏のイメージがあると思いますが、最近では、夏は国産より韓国産のほうが柔らかく、10月ごろからは淡路島産の鱧が脂がのっておいしくなります。食材はいいものがあれば全国から仕入れますが、魚介は淡路島産がメインです。

名作チェアのコレクターです

椅子が大好きで、特にハンス・J・ウェグナーとフィン・ユールのものを中心に集めています。どちらもデンマークのデザイナーで、僕が作品を購入していた20年前にはこれほど注目されるようになると思っていなかったのです。今は値段もかなり高騰しています。今の店のお向かいがアンティークの家具屋さんで、そうしたチェアも扱っているので、昔からよく通っていました。現代のものも、ビンテージも気に入ったものがあれば購入します。1960年代くらいの、ロイヤルコペンハーゲンのローズウッドのテーブルも持っています。銀座の店はジョージ・ナカシマのチェアを使っていましたし、アイルランドの女性デザイナー、アイリーン・グレイの作品も好きですね。自宅は椅子だらけで、置き場所がないのでコレクション用に倉庫を借りています。今は100脚くらいかな。それぞれに思い出もあって、なかなか捨てられません。

食後は口直しや茶菓子も含め、少量をまとめてデザートとして提供。タピオカ、バジルシード、リンゴをコンポートにした豆乳のババロア、12時間かけてサクサクに焼いたシュークリーム、栗の渋皮煮など。

「最初に魚介のオードブルを出すことが多いです。いろいろ盛り合わせて、昔のザ・オードブルみたいでしょう」と、米村昌泰シェフ。確かに、ひと昔前のフレンチによく見られたスタイルだが、古臭さは一切ない。懐かしくも新しい、独特の洗練されたセンスは米村シェフならではのものだ。

京都と東京の人気店「レストランよねむら」を閉め、集大成として再出発するにあたり、意気込みを尋ねると「特にないんですよ」と、飄々と言う。 「自分がやってきたことを積み重ねた店にしたいのです。スマホで何でも調べられる今だからこそ、流行や自分の考えに固執するのではなく、もっとフラットに、その日のゲストに、その時最上の料理を作りたいですね」

若い頃はスタイリスト志望。服飾の学校に入るべく上京したが、気づいたら願書の締め切りが過ぎていた。アルバイトで入った飲食店で、現・東京「サロン・ド・カッパ」の田口昭夫シェフに出会い「料理人って格好いいものなんだ」と憧れ、料理の道へ。京都に戻って調理師学校に通い、のちに入社した「北白川西洋膳所おくむら」で10年間勤務した。

オードブル。宮城のムール貝におぼろ昆布を添えたカナッペ、イカの詰め物の淡路島ウニと白エビ、キャビア載せ、トマトに洋梨と伊勢海老を載せたもの、洋梨のコンポートとヒラメをイベリコ豚のハムで巻いたものなど。

「シェフの奥村真三さんとは今も定期的にお話ししています。自分の店では奥村さんとは違うことをやらないといけないと思っていたのですが、最近はたまにまねしています(笑)。例えば奥村さんのように、秋のお皿に紅葉を飾ることも、喜ぶお客様がいるならいいじゃないか、という感じにね」

コースはお任せのみ。新しい料理に紛れて「20年前に作っていた、シイタケの中に生地を入れて、ハマグリと一緒に出すお好み焼きを出してみたのですが、好評でした。お客様のご要望で、カレーライスも出しています。鶏ガラと仔牛の出汁で2日間かけて作る具なしのカレーで、これも人気がありますよ」と、なんとも楽しそうだ。

オープンから1年を待たず、「ミシュランガイド京都・大阪2020」では二つ星の評価を受けた。東京から駆けつけるファンの他、新規のゲストも増えている。新たな幕を開けた、「新門前 米村」の世界を堪能したい。

●新門前 米村
京都市東山区新門前通花見小路東入梅本町255
TEL 075-533-6699
営業時間 12:00~14:00(L.O.) 18:00~21:00(L.O.) 火曜、水曜定休

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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