1964年大阪府生まれ。高校卒業後、複数店でサービスを経験した後、渡伊。京都「イル・パッパラルド」などのシェフを経て、38歳で独立。現在は東京、大阪にも出店している。
京都は料理をするのにすごくいい街
本店は京都ですが、出身は大阪です。大阪のイタリアン「ラ トゥール」でシェフを務めた後、イタリアに修業に出て、27歳で帰国した時、声をかけていただいたのが京都の「ラヴィータ」でした。そこでシェフを務めた後、今も京都にある「イル・パッパラルド」のシェフとなり、その流れで京都に出店しました。京都に根付いた理由は、料理をするにはすごくいい街だからです。おいしい店が本当に多いですし、ジャンルを超えたお付き合いがあります。京都人は閉鎖的とも言われますがそんなことはなくて、皆さん、いい食材があればすぐに教えてくれますよ。
生産者さんとの距離も近いので、出始めの頃に収穫を手伝って「こういう味の野菜ができたよ」と聞けば、じゃあ調理法はこうしよう、とアイデアを広げられます。反対に、こちらからこういう料理にしたいと伝えれば「じゃあ、こっちの畝(うね)から引いてあげよう」と、より料理に合った野菜をいただけたりもします。また、店で出た野菜くずやアサリの殻を分別して、農家さんに堆肥(たいひ)として使っていただいています。車で15分も走れば手渡せるので簡単ですよ。近年はフードロスが問題になっていますが、京都では人のつながりによって、昔からこうしたやり取りがあります。
京都の食材や調味料を取り入れています
「もしイタリアに京都という州があったら?」というのが「イル ギオットーネ」のコンセプトです。イタリアには、土地の食材を使った、古くからある食文化を大切にしようというスローフード精神が根付いています。それは、「地産地食、十里四方のものを食す」という京料理の考え方に通じているのです。「イル ギオットーネ」の料理は、日本人の私が愛してやまないイタリア料理を、京都の食材を用いて作ったもの。京野菜だけでなく、調味料でも京都のものを用いています。京都で代々続く長文屋(ちょうぶんや)**さんの七味唐辛子も長年使っていますね。特に中辛は、辛すぎず、風味豊かでイタリアンにもすごく合います。パスタや肉料理をぴりっと引き締めてくれます。昆布の出汁や日本酒も、必ずというほど使いますね。旨みの出方が違うのです。あえて京都や日本の食材を取り入れているというより、おいしいから使っています。
愛用のジーパンとタオル
仕事着はいつもコックコートにジーパンです。このままの格好で、大阪や東京の店に行く時の新幹線にも乗っちゃうから、すぐ見つかっちゃう(笑)。でも、動きやすいし、わざわざ着替える時間がもったいないですからね。ジーパンは、ディースクエアードというイタリアのブランドのものを長年愛用しています。最初はなかなか脚が通らないくらいきついのですが、2回はくともう、どこもかしこも自分の体にフィットして、ものすごく仕事しやすいんです。デザインとしてダメージが入っていることもありますが、エプロンをすればお客様には見えないので大丈夫。毎シーズン、これしか買わないので、店の方も他の服は一切勧めてきません。お古はスタッフにあげています。もう一つ、ずっと愛用しているのがキッチンのタオル。ウィリアムズ・ソノマのもので、長さも耐久性もちょうどいい。ハワイに行くたびに大量にまとめ買いしています。
京都の他、東京・丸の内と大阪に店を構え、全国に同店出身のシェフを20人以上も輩出する「イル ギオットーネ」の笹島保弘氏。日本のイタリア料理界に大きく貢献した名シェフだが、今も欠かさないのは、常に食べ手の反応を確かめることである。
「サービススタッフと連携して、お客様に合わせて料理を調整します。味の濃い料理は、若い方より年配の方にお出ししています。塩分ではなく旨みを足して、少量でもご満足いただけるようにします。若い方は旨みばかりだと飽きてしまうので、食感や温度で緩急をつけたり。毎日、お客様が違うので、何年たっても新鮮です。その意味で、レストランは天職だと思っています」
料理は華やかだが無駄はない。鴨の付け合わせにした九条ねぎの根も、飾りではなく味わってほしいから添えた。共通するのは「おいしいかどうか」。
「非日常の驚きは大切。でも一番は、お客様が食べておいしいことです」
ゲスト目線なのは、サービス出身の経歴も影響している。若い頃はファッションデザイナーに憧れたが、まず自立するためにフランス料理店のホール職に就いた。厨房に入ったのは人手不足を補うため。それから料理に目覚め、サービススタッフとして働きながら、無給で複数店での料理修業に励んだ。“イタメシ”ブームの立役者、山田宏巳シェフの元にも足繁く通った。
「その後、イタリアで修業をした時には、『洋服はお洒落(おしゃれ)なのに、料理はこんなにださいのか』と、驚くとともに強く引かれました。見た目ではない、確かなおいしさがあったからです」
京都に店を構えてからは、日本の食材とイタリア料理の伝統を大切にした、独創的な料理で時代を築いた。だが、熟練の域に入った今だからこそ「大好きな、ださいイタリア料理に立ち返ってみたい」という思いもある。
今後は、スパゲティボンゴレやアクアパッツァなど、伝統的なイタリア料理を出すイベント「トラットリアナイト」も増えるかもしれない。笹島シェフによる、懐かしくも極上なイタリアンも、ぜひ味わってみたい。
●イル ギオットーネ
京都市東山区下河原通塔ノ前下ル八坂上町388-1
TEL075-532-2550
営業時間12:00~14:00(L.O) 18:00~20:30(L.O)
火曜定休
※『Nile’s NILE』2020年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

