芯のある繊細さ ロオジエ

オリヴィエ・シェニョン

Photo Masahiro Goda Text Izuzmi Shibata

オリヴィエ・シェニョン

仔鳩を用いたメイン料理。ローストした胸肉は、スライス(右手前)と、オレンジやスパイス風味のグラティネ(左奥)の2種類の仕立てに。もも肉はコンフィにし、ソース・ビガラードで甘酢味とする。栗やレモンコンフィを合わせてサラダ菜で包んだ付け合わせを添える。

1973年の創業から、日本を代表するフランス料理店として君臨する「ロオジエ」。2年半の休業を伴う大改装を経て、40周年を迎える2013年にリニューアルオープン。その際、新たにエグゼクティブ・シェフに就任したのがオリヴィエ・シェニョン氏。独自のエレガントさで、ロオジエの未来を作り続ける。

オリヴィエ・シェニョン
1978年フランス・ロワレ生まれ。パリの「タイユヴァン」「ピエール・ガニェール」などを経て、2005年に来日。「ピエール・ガニェール」東京店の初代シェフに就任する。2013年から「ロオジエ」のエグゼクティブ・シェフに。

クラシックと前衛、対照的な店で経験を積みました

初めて厨房に入ったのは8歳の頃。バカンスの時期に、パティスリーを営む両親の友人の手伝いをしていました。テーブルが高いので、台の上に立って菓子作りをしている小さな頃の写真があります(笑)。私にとって、バカンスの過ごし方としてはそれが自然で、15歳で料理学校に入るまでこの習慣は続きました。

料理学校では、月の3週間は実際のレストランで研修に入り、1週間は授業を受けるというサイクルで経験を積みました。卒業後は地元の星付きレストランで本格的な修業を開始。その後、兵役を経て、パリで働くことになりました。

パリでまず印象に残っているのは、「タイユヴァン」の伝説的なオーナーにして支配人、ジャンクロード・ヴリナさんのもとで働いたことです。ヴリナさんの完璧を求める姿勢に感銘を受けました。そんなクラシックなタイユヴァンとは一転、ピエール・ガニェールさんのもとでは、湧き出る創造性を自由自在に料理に反映するスタイルに感銘を受けました。またこの時の縁で、私は後に、ガニェールさんが日本に店を出す時のシェフとなったのです。そうした意味でも、ガニェールさんとの出会いは私にとって、ひときわかけがえのないものとなりました。

日本の魚の、繊細でしっとりとした食感は格別です

2005年から日本でシェフとして働くようになったのですが、それまで日本にはバカンスで1回来たことがあるだけでした。そのため、まずは日本の食材と旬を知ること、日本の文化を学ぶことに力を注ぎました。

その際にお世話になったのが、当時は築地にあった魚市場の仲買人さん。日本に来てから知ったさまざまな魚―クエ、ハタ、アマダイ、キンメダイ、ヒラスズキ、メバル、オコゼなどは、今では料理に欠かせない食材として活躍しています。

特に好きな魚は、アマダイです。ソテーしてうろこを立たせると、シャリシャリとした心地よいテクスチャーになる点、そしてしっとりとした身が気に入っています。とりわけシロアマダイの繊細な身は格別です。

器は、料理の価値を高めてくれます

写真の右側にある白い器は、本物のアワビの殻から型をとって作ったものです。アワビの料理で専門に使う予定にしています。ちなみにアワビはフランスにもありますが、日本ほど大きくもなければ、柔らかくもない。味わい深くて食感もよいアワビは、日本を代表する食材の一つではないでしょうか。そんな立派な日本のアワビにふさわしい器を、と考え、特別に製作しました。

このように、器にも独自性を求めたり、料理に合わせた器を選んだり作ったりするのは昔から好きですね。どんな皿を使うかによって、料理の印象も変わってきます。もちろん料理の中身、そのものが大事なのですが、その価値を高めてくれるという意味で、皿も大切なものとして考えています。

「ロオジエ」という日本を代表するレストランの厨房を率いる立場にありながら、オリヴィエ・シェニョン氏から受ける印象は、いたって柔和だ。

パリの「タイユヴァン」「ピエール・ガニェール」という、古典とモダン、両方の殿堂とも言える店で働いたシェニョン氏。そんな華麗な経歴を持つにもかかわらず、「私は地方都市の出身。パリで働くことに対してこだわりは持っていなかった」と穏やかに話す。

シェニョン氏は根っからの料理好きで、その片鱗は若きアプランティ(見習い)時代での、アプランティ全国コンクールでの優勝歴にも表れている。加えて、タイユヴァン時代に身につけた「料理だけではなく、サービスやしつらえも含めたレストラン全ての要素に情熱を傾け、完成度の高い世界を作り上げる」という広い視点を持っている点も、氏の強みだろう。

シェニョン氏が日本で働くようになったのは、2005年から。ピエール・ガニェール氏が日本に支店をオープンした際、そのエグゼクティブ・シェフに就任しての来日だった。以来、シェニョン氏は日本の食材や文化に対する理解を深めるべく、市場や産地に足を運び続けている。

「“これは”という日本の食材に出合った際は、まず日本料理ではどのように使われているか学びます。そこからフランス料理に落とし込むよう考えるのです」と、食材に優しく寄り添う姿勢が印象的である。

冬に旬を迎える毛蟹と蕪、カリフラワーを用いた、繊細で優しい味わいの前菜。主役は、ほぐした蟹の身、甲殻類のジュで作ったジュレ、カリフラワーのクリームなどを蕪の薄切りで包んだもの、蕪のアイスクリームの自然な甘み、ひんやりとした口当たりも印象的だ。

「私は常に進化を心がけています。日々、よりお客様に喜んでいただくために改善すべき点はないか、考えています。また、料理を作ることを自分で楽しみ、お客様にも喜んでもらいたい」

こうした思慮深くポジティブで、生き生きとした人柄が伝わってくるのが、今のロオジエの料理の特徴だ。

「ロオジエは歴史があるレストラン。そこに自分らしさを加えています」と話すように、フランス料理の本質の上に、繊細な日本の食材、シェニョン氏のエレガントな感性が響き合う。そんな彼の料理が、お客を深い癒やしと満足へといざなっている。

●ロオジエ
東京都中央区銀座7-5-5
TEL 0120-156-051
営業時間 12:00~13:30(L.O.) / 18:00~20:30(L.O.)
日曜・月曜、年末年始、夏季(8月中旬)定休
※祝日不定休

※『Nile’s NILE』2020年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

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真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
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