銀座で16年、食材に真摯に向き合う 銀座とよだ

岡本圭一

Photo Haruko Amagata Text Rie Nakajima

岡本圭一

昆布出汁の香り高い、上品で味わい深い椀は「銀座とよだ」らしい一品。魚のつなぎを極力減らした蟹のしんじょは、蟹そのものを味わっているような感覚になる。青菜と蟹味噌を添えて。

群雄割拠の銀座7丁目で16年間、愛され続ける「銀座とよだ」。最新の『ミシュランガイド東京』でも二つ星を獲得した名店ながら、日々、よりよい食材を探し求め、おごらず、気負わず、食材のおいしさをシンプルに引き出す料理を提供する岡本圭一氏の温かな料理が、ゲストの心を引きつける。

岡本圭一(おかもと・けいいち)
1966年岡山県生まれ。京都、大阪を始め関西の日本料理店などで修業を重ね、六本木の日本料理店で5年間、料理長を務める。2004年の「銀座とよだ」のオープンから料理長に就任。

出汁は昆布多めの京風です

京都を始め、大阪や東京など各地で修業しているので、どこの料理がベースなのかと聞かれることがあります。しかし、どこというよりは、理屈ではなく、その時、その料理にとってよりおいしいと思う調理法を選択しています。

ただし、出汁は主に京風ですね。関西でも大阪と京都ではお出汁のとり方が違っていて、京都は昆布をたくさん使うのに対し、大阪は鰹節を多めに使います。大阪でももちろん昆布は使いますが、昆布の風味が鰹節のそれを上回ることはないですね。

特にこだわっているのは椀の出汁で、煮物など他の料理とは分けています。椀の出汁には、煮物などで使う基本的な出汁をとる昆布や鰹節よりも、ツーランクほど高品質のものを使用。椀の出汁は、一度に二升分をとります。まず、水にかなりたっぷりと昆布を入れ、一晩漬け込みます。火を入れる前に昆布を外し、沸騰の直前まで煮立てたら、72度から75度くらいまで自然に冷まします。それから鰹節を入れてポットの上でこし、それを氷水で冷やします。熱いままだと香りが飛んでしまいますからね。2升分で鰹節を100gほど使うのでかなりの量ですが、メインは昆布。味わいにも昆布の風味をより強く感じられると思います。

愛用の土鍋コレクション

土鍋はいろいろ集めています。特に炊き込みご飯でよく使っているのは、滋賀県の信楽にある雲井窯の中川一辺陶さんの土鍋です。和食業界では有名な作家さんで、一般の方でも購入できますが、かなり人気があるので注文してから届くまでに、1年から2年かかるそうです。普通、土鍋というと裏側は釉薬が塗られていない素焼きの状態です。中川さんの土鍋には裏側にも釉薬が塗られているのが特徴。裏が素焼きだと、一度使って洗うと水を吸うため、すぐ火にかけると割れやすくなってしまいます。中川さんの土鍋なら簡単には割れません。うちの店では昼夜ともにコースの締めに炊き込みご飯をお出しするため、頻繁に土鍋を使っても、これなら安心して使い込めます。

旬の野菜をふんだんに使っています

コースのメインは魚介ですが、旬の野菜もできるだけ多く食べていただきたいと思っています。例えば、この時期なら蕪がおいしいので、コースの最初にタラの白子とカブを一緒にすりおろしたかぶら蒸しをお出ししたり、お造りにも何かしら野菜をおつけしたり。仕入れ先は京都や加賀が多いですね。冬なら、源助だいこん(加賀)、えびいも・京にんじん・伏見とうがらし(京都)、それからゆず(高知)。昔はコースの料金が上がるほど野菜の量が減るのは当たり前でした。今は野菜のほうが高くて貴重なものもありますし、生産者が丁寧に育てた上質なその味わいは、決して魚介や肉に劣らない“おいしさ”があります。それを味わっていただきたいですね。

最高級の昆布を贅沢に使った京風出汁に、兵庫県産の津居山かにのしんじょを入れて。しんじょといっても、つなぎ(白身魚のすり身)は極力減らし、旬の蟹の味わいがしみじみ感じられる一品に仕立てた。炊き込みご飯は、鯛の頭を焼いて2枚に割り、豪快に載せている。

「鯛は小ぶりだと脂ののりが悪く、大きすぎると味がぼやけます。店では2kg前後の鯛の頭だけを焼き、お米と一緒に炊き上げて、鯛の香りやお出汁をすべてご飯に移しています」

冬は、夜のコースすべてに香箱蟹をつける。近年は香箱蟹の価格が上がっているが「この時期はこれ、という旬のものは努力して出しています」と岡本圭一氏は語る。食材は豊洲市場で仕入れることも多いが、各地から独自に開拓したルートで直接仕入れるものもある。こだわりの食材は、できるだけシンプルに提供するのが信条だ。

「旬のおいしい大根なら、炊いただてでそのまま出したいです。でも、こうした究極にシンプルな料理を出すには勇気がいります。どのように作られた食材であるかをお客様に説明しつつ、納得してもらえる料理にしたいと思っています」

鯛の炊き込みご飯。鯛の頭の旨みたっぷりの出汁がご飯に染み込み、最後の一粒まで楽しめる満足度の高い料理。2kg程度の鯛を使っているため、頭の身も味わうことができる。土鍋は愛用の中川一辺陶氏の作品。

奇をてらわず、何を食べたかわかる料理を。それは、歴代の師から学んだことでもでもある。岡山県の食堂を営む家庭で育ち、大阪の辻学園日本調理師専門学校へ。卒業後は大阪、京都、奈良、和歌山、兵庫と関西各地や、岐阜県のホテルで勤務した。最後に六本木の店で5年働いた後、「銀座とよだ」にたどり着く。

「各地を転々とした上に、割烹、料亭、ホテル、旅館などさまざまな業態を経験したので、状況によって料理を工夫する引き出しは増えた気がします」

『ミシュランガイド東京』に2008年から13年連続で掲載され、最新版では二つ星を獲得。紛れもなく名店の域だが「食材の持ち味を生かす上では、まだまだ未熟です」と語る。

「基本はブレませんが、自分の哲学を貫くより、頭を柔らかくして、時代やお客様に求められるものを作りたいと思っています。生産者の訪問も、今後はもっと増やしたいですね」

岡本氏の挑戦に、終わりはない。

● 銀座とよだ
東京都中央区銀座7-5-4 ラヴィアーレ銀座ビル2F
TWL 03-5568-5822
営業時間 11:30~13:30(L.O.) ※月曜・土曜12:00~ / 17:30~19:30(L.O.)
日曜、祝日定休 ※不定休あり

※『Nile’s NILE』2020年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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