2025年4月、東京タワーに隣接するラグジュアリーホテル「ザ・プリンス パークタワー東京」が開業20周年を迎えた。そのアニバーサリーとして生まれ変わったのが、32・33階のスイートルーム、クラブラウンジ、バー、ダイニング、バンケットだ。アースカラーを基調に寄木張りの床や大理石のカウンターを配した重厚で落ち着いた空間は、モダンながらどこかノスタルジックな雰囲気を醸す。目前に広がる唯一無二のビューと共鳴し、滞在を忘れられないものにしてくれるだろう。「近年、特に増加している海外ゲストの訪日目的には、観光や食事、買い物のほか“映える写真を撮ること”が挙げられます。そこで東京タワーを間近に眺めるロケーションの魅力をこれまで以上に引き出し、“東京の特等席”を演出することに。ビューを主役にした特別感のあるプランやデザインにより、心に残る体験ができるホテルとして好評をいただいています」と、同ホテルの総支配人である神田泰寿氏が語る。
このリニューアルを手掛けたのが、住まいからホテル、オフィス、商業施設まで多様な空間デザインに携わる三井デザインテックだ。幅広い経験で培った総合力を生かし、“クロスオーバーデザイン”を軸に、富裕層が求める要望に細やかに応えている。「クロスオーバーデザインとは、異なる空間要素の掛け合わせにより、新たな価値を生み出すこと」と話すのは、同社のデザイン領域のフェローを務める見月伸一氏。「このフィロソフィーを最初に打ち出したのは2015年のこと。住まいが民泊になったり、カフェが仕事場になったり、一つの空間の用途が広がり始めたなかで、複数の掛け合わせが空間の価値を高めると考えました。その後、レコードやフィルムカメラなどのリバイバルを受けて、アナログな時代にあった情緒的価値や感情的価値に着目し、空間デザインにも過去の時間軸を織り交ぜてきました。さらにコロナ禍を経て、現在クロスオーバーデザインの要となっているのが“ウェルビーイング”を取り入れることです」
単なる健康や幸福にとどまらず、自分らしく伸びやかにいられることを意味するウェルビーイング。それをかなえるには、心身の健康、価値観を共有できるコミュニティー、生き生きとした暮らしの三つの要素を満たさなければならない。「これらはまさに今、富裕層が求めているものではないでしょうか。少し前のラグジュアリーデザインは物質的な面が重視されすぎていましたが、今の時代に求められているのは心身が満たされた状態で過ごせること。それをデザインでかなえていくのが私たちの役割です」と見月氏。
具体的なデザイン手法は、プロジェクトごとにあらゆる条件を俯瞰しながら選んでいくが、同社デザインディレクターの山野奈緒氏が大切にするものの一つが自然感だ。「本来あるべき形をかなえるのがラグジュアリーだからこそ、自然に溶け込む空間の在り方を考えます。ただ天然素材を使うのではなく、光の反射や音の響き方、手触り、香りなどを繊細に掛け合わせ、本質に近づけるよう細部まで配慮していますね」。「たとえばフィンランドでは、“サイレンス”と“ノイズレス”のどちらがくつろげるのか議論する。それぐらい五感に対する繊細な配慮が必要なんです」と見月氏も語る。
また、情緒を醸し出すノスタルジックなインテリアや、丁寧なプロセスを経たクラフト、感性を刺激するアートの導入も、ウェルビーイングをかなえるものだろう。前述の「ザ・プリンス パークタワー東京」でも、ダイニングのグリルカウンターに配した伊達冠石や、墨絵から着想したスイートルームのオリジナルカーペットなどが、ビューと共に滞在の感情的価値を高めている。リニューアルを担当したクリエイティブディレクターの田中映子氏は「“THE TOKYO FUSION”をテーマに、東京の伝統文化を現代的に解釈したデザインを随所に配しました」と振り返る。さらに山野氏が担当した福岡の分譲マンション「MJR赤坂ゲートタワー」のラウンジでは、「天神エリアという立地から、落ち着きだけでなくファッショナブルな要素も取り入れたエモーショナルな空間を意識しました」と山野氏。ウェルビーイングという切り口にうなずける同社のラグジュアリーデザインに、今後も期待したい。
●ザ・プリンス パークタワー東京
TEL 03-5400-1111 www.princehotels.co.jp/parktower/
●MJR赤坂ゲートタワー
TEL 0120-115-211 ww.jrkyushu.co.jp/mjr/akasaka-tower/
●三井デザインテック スペースデザイン事業本部 ホテルデザイン事業部
TEL 03-6366-3122
※『Nile’sNILE』2026年4月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

