寄り添う、人と大地 Evolution & Symbiosis

太平洋の南西に位置するニュージーランドは、北島と南島の二つの細長い島から成る。この小さな島国には、壮大な氷河、美しいフィヨルド、険しい山々、広大な平野、うねるように続く丘陵地、亜熱帯森林、火山台地、いくつもの砂浜を結ぶ長い海岸線……“世界の自然遺産”のすべてが詰まっているのだ。

Photo Chiyoshi Sugawara Text Koko Shinoda

太平洋の南西に位置するニュージーランドは、北島と南島の二つの細長い島から成る。この小さな島国には、壮大な氷河、美しいフィヨルド、険しい山々、広大な平野、うねるように続く丘陵地、亜熱帯森林、火山台地、いくつもの砂浜を結ぶ長い海岸線……“世界の自然遺産”のすべてが詰まっているのだ。

湖畔に突き出た14haもの広さがある公園「クイーンズタウン・ガーデン」。樹齢を重ねた大木の下には、ゆっくりくつろげるベンチがある。何げない野の花、野鳥もかわいらしい。

南北二つの島から成るニュージーランドは、最も南極大陸に近い島国となり、北半球とは季節が真逆となり、現在は盛夏。真夏でも海から冷涼な風が吹き、湿度が低い爽やかな気候、例年なら山々などの草木が褐色するという現象は、昨年雨が多かったため、野山もみずみずしい緑に覆われている。

そもそもこの国の歴史は、約1000年前、南太平洋のポリネシアから先住民マオリが、カヌーで渡ってきたことに始まる。先住民マオリは温暖な気候を好み、北島に多く居住し、特に交通の要であるオークランドには総人口(476万人)の3分の1が集中している。

一方、先住民マオリが「翡翠の島」と呼んだ南島は、南アルプス山脈が南北に走り、ドラマチックな景観が広がる。そして、緑豊かな大地には山と森に囲まれた湖畔の小さな町が点在する。その代表的な町がクイーンズタウンだ。風光明媚な湖畔のクイーンズタウンは、19世紀後半に短期間、ゴールドラッシュで沸いたものの、その後は高原の静かな湖沼リゾートとして成長してきた。300km西に広がるフィヨルドランド国立公園内の入り江であるミルフォード・サウンドの拠点として、また、数々のアウトドア・アクティビティーを楽しめる町として人気を集めるようになった。今や町の顔の一つであるバンジージャンプの発祥地でもある。

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    クイーンズタウンのエコホテル「シャーウッド」のオーナーのサム・チャップマンさんは、今年のハーブや野菜の収穫に笑顔を見せる。アーティチョーク、ルバーブ、ズッキーニもおすすめと話す。
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    菜園からハーブや野菜を収穫してすぐに調理された料理は、色鮮やかで美しい。仔羊やポーク、牛なども近くの生産者と提携している。また産みたての卵を用いた朝食も好評だ。
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人口3万人ほどのクイーンズタウンは今や、年間150万人もが訪れるニュージーランド随一のリゾートだ。湖の東西を連ねる道は急速に拡大している。一方で、地元のキウィ(ニュージーランド人の愛称)たちは、どこまでも続く澄んだ空や湖、山々の美しさといった自然と、共に生きる暮らしを大切にしている。

地元の人に人気を博すエコホテル「シャーウッド」は、3haのオーガニック菜園を持ち、キッチンと直結した形で運営されている。オーナーのサム・チャップマンさんは、海外で10年近く働いて経験を積み、クイーンズタウンに戻ってきた後、既存のホテルを買い取り、4年前に78室のエコホテルとして改装した。エネルギーの大半は太陽光発電でまかない、建物はリサイクル品で改装。レストランでは、自分たちの菜園で収穫したハーブや野菜を生かし、近くの生産者と提携した肉や卵を用いる。

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    数隻の遊覧蒸気船が発着する波止場。クルーズでは最高峰のアーンスロー山(2819m)を始め周囲の山々の風光を楽しめる。また通年、トラウト・フィッシングができるし、夏には海水浴も可能だ。
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    クイーンズタウンにある「ザ リース ホテル & ラグジュアリーアパートメンツ」は、客室からワカティブ湖や周辺の山々の景色を望める五つ星ホテル。どの部屋も広々としたデザインで、各部屋に専用バルコニーを完備する。
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    1時間もあれば見て回れる、クイーンズタウン中心部のショッピングストリート。大型モールなどはなく、有名ブランド店はもちろんのこと、こぢんまりした地元のブティック、アートギャラリーなど、路面店が軒を連ねる。
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    ニュージーランドで3番目に大きいワカティプ湖のほとりにあるクイーンズタウン。ワカティプ湖は、一つの氷河が削った谷間に水がたまり形成されており、稲妻のような形状をしている。そのため干満が発生する。
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これらを単なる観光資源として消費するのではなく、地元のよさを発見し、それを“資源”として活用した事業やプロジェクトが随所で花開いているからだろう。

壮大な景観と、海洋生物や野生生物の宝庫として有名なオタゴ半島。中でも、リトル・ブルー・ペンギンやイエロー・アイド・ペンギン、ニュージーランド・オットセイ、ニュージーランド・アシカのすみかとなっている。タスマン海に突き出た細長いこの半島に守られた美しい入り江の奥に位置するのがダニーデンだ。

タスマン海に向かって伸びるオタゴ半島は、無数の入り江に囲まれている。先端に行くに従い、手付かずの自然が残る。夏でも南極大陸からの冷涼な風が吹いている。

1770年、オタゴ半島を見つけたキャプテン・クックは、この地が海洋天国であるとヨーロッパに伝え、その半世紀後には捕鯨のための村ができたという。1848年にスコットランド自由教会からの移民たちにより開拓され、ゲール語で「エディンバラ」を意味するダニーデンと名付けられた。現在でも「南のエディンバラ」と呼ばれるほどスコットランド文化を色濃く残す町である。1861年にはダニーデン近郊のガブリエル渓谷で金脈が見つかり、ゴールドラッシュが起きる。これにより、スコットランドを始め世界各地から採掘者が押し寄せ、ダニーデンの人口は増加。産業物流の拠点として栄えた。ニュージーランド銀行が開行したり、鉄道が敷かれたり、港が整備されたりして、金が10年ほどで枯渇した後も、経済的繁栄によりダニーデンはニュージーランド随一の都市となる。その証しとして今でも市内には、ビクトリア様式やエドワード様式の豪華な建物が数多く残り、繁栄の歴史を物語っている。20世紀に入ると、北島に人口と産業が移り主都の座を譲るも、ダニーデンは南島第二の学園都市として発展している。

オタゴ半島の湿地帯で羽を休めていた黒鳥の群れ。定期的に長い距離を移動する“渡り”の習性がなく、この半島付近に常時生息する。つややかな黒い羽と紅のくちばしが印象的だ。また、ニュージーランド・オットセイやニュージーランド・アシカが半島のあちこちで暮らしている。
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ダニーデンの中心街は、八角形に区画整備されたオクタゴンと呼ばれる広場があり、東西南北に主要道路が伸びる。広場の周りは瀟洒なカフェやレストランが立ち並ぶが、重厚なビクトリア様式やエドワード様式の歴史的な建造物が立つ。高層建築が少なく、しっとりとした往時の風情が漂う町並みこそ、ダニーデンがスコットランドよりスコットランドらしいといわれるゆえんだ。

ダニーデンのランドマークともなっている、ダニーデン駅。イギリスの高級車ジャガーでダニーデン市内を観光できる、プライベートツアーもおすすめだ。坂が多く、風が強い町を、快適にドライブすることができる。

オクタゴンの真東に「世界一美しい駅」と称されるダニーデン駅がある。1906年完成のフレミッシュ・ルネサンス様式だ。南島の主要都市を結ぶ物流拠点として、19世紀後半には日に100以上の列車が往来した。駅の裏手の倉庫街からも、オタゴ湾にアクセスできるようになっていた。1949年に市がこの倉庫を大改装し、1階にはカフェやレストラン、2階にはアートやスポーツ関連のギャラリーが入る。そして1日1便の観光列車を運行。全長1kmに及ぶプラットホームは国内最長で、毎年10月に開催されるファッションショーでは、キャットウォークとして使用される。週末には、ファーマーズマーケットで駅前広場はにぎわいを見せている。

南側にそびえる時計台は、オタゴ大学のそれと並び、今も市のシンボルの一つだ。スカイラインは穏やかながら、起伏に富んだ地形であるため、古い町並みにも躍動感がある。ちなみに、「世界一の急勾配の坂道」としてギネス記録を持つ500mほどの坂道が、町はずれにある。

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    ダニーデン駅の扉。ガラス窓に残された昔のロゴ・デザインが往時の趣を醸す。真鍮の取っ手がしっかり磨き込まれている。
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    階段の踊り場のステンドグラス。朝日が差すと、一層美しく鮮やかになるという。煙を吐く蒸気機関車が迫ってくるような図柄。
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    階段のリズミカルな鉄細工の手すりが、駅の2階に誘う。昔は特別な待合室があったというが、今は土産物店やギャラリーが入っている。
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    鮮やかなモザイクの床が目を奪う。中心の絵柄は蒸気機関車。その他のものも、列車に関係しているアイテムで表現されている。
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ダニーデンは、ニュージーランドで最初となる国立大学のオタゴ大学を1869年に開校した都市だ。国歌の作詞者など多くの文化人を輩出していることから、ユネスコの創造都市ネットワークに認定されている。

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    ダニーデンの北西部の小高い丘の昔ながらの高級住宅地に立つオルベストン邸。19世紀後半に成功した貿易商の屋敷で、ロンドンの建築家が設計したスコットランド様式。館内は昔のままの内装で、世界各地で集めた高価な調度品や美術品が残されている。
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    オタゴ湾を望むオルベストン邸のイングリッシュガーデン。庭には樹木やハーブ、宿根草が植えられ、英国風である。末裔が数十年前に亡くなっており、この館は市に寄付された。英国に遠い親族がいるというが、ここのアセットには興味を示さなかったとか。
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現在の人口12万人のうち約2割が学生で、町中に若いエネルギーがみなぎっている。ダニーデンのストリートアートが支持されたのも、こうした若い感性の成すところが大きい。現在、市内には30以上の壁画アートが点在し、これらを解説付きで見て回る2時間ほどのツアーもある。市と市民のサポートで花開いたストリートアートは、愛好家が2014年に大きな壁面を持つ建物のオーナーにベルギーのストリートアーティストの作品を描くことを提案したのがきっかけだったという。個人的な趣味ではあったが、これに多くの市民が共感したため、ストリートアートを誘致するボランティア団体を設立。クラウド・ファンディングなどで資金を集め、アーティストを招聘した。

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海外の有名アーティストに作品を依頼することで、ダニーデンの市民にも、日常的に海外のアートを楽しんでもらうと共に、海外のアーティストにもニュージーランドを知ってもらおうという試みだ。アーティストは作品を制作する期間、ダニーデンにホームステイする。当初、一部の市民からストリートアートに市の予算を費やすことへの抵抗があったそうだが、ソーシャルメディアによる宣伝対価が拡大し、今では大プロジェクトとなった。

ポーランドの女性アーティストによる作品“LOVE IS IN THE AIR”。ダニーデンに1週間滞在して、ヒントを得たテーマだという。子供の洋服の柄なども丁寧なタッチで精密に描かれている。

※『Nile’s NILE』2019年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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