レガシー、継承から発展へ
ガストノミー “ジョエル・ロブション”

フランス料理業界にあまりにも大きな功績を残して、2018年、この世を去ったジョエル・ロブ ション氏。その神髄を守り継ぐべく、総料理長に任命された関谷健一朗氏に、その思いと決意 を聞いた。

Photo Masahiro Goda Text Hiroko Komatsu

フランス料理業界にあまりにも大きな功績を残して、2018年、この世を去ったジョエル・ロブ ション氏。その神髄を守り継ぐべく、総料理長に任命された関谷健一朗氏に、その思いと決意 を聞いた。

関谷健一朗(せきや・けんいちろう)
1979年、千葉県生まれ。調理師専門学校を卒業後、ホテルを振り出しにパリへ渡る。 いくつかの三つ星店で修業後、「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」に5年勤務。 帰国後、日本の同店に11年勤務し、2021年11月にガストロノミー・ジョエル・ロブション”の総料理長に就任。

「ミシュラン東京」創設以来15年間、三つ星に輝き続ける、「ガストロノミー “ジョエル・ロブション”」。言わずと知れた、今は亡き、フランス料理界の巨星ジョエル・ロブションの東京本店である。その大舞台の総料理長を2021年11月から務めることになった関谷健一朗氏とは、どのような料理人なのであろうか。

まずは、ロブションファミリーとの出会いから、現在までの歩みを辿ってみたい。20代でパリに渡り、パリの「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」で約5年研鑽を積み、帰国後、六本木の「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」で11年料理長を務めた。ここ1〜2年はラトリエ ドゥ ジョエル・ロブションと「ラターブル ドゥ ジョエル・ロブション」を行き来しながら全体に目を配ってきたという。

正式に任命されたときの気持ちを聞いた。「身が引き締まる思いでした。確かに荷は重いですが、誰もができるポジションではないことを考えたとき、名誉なことだという思いももちろん強く、しっかり邁進していきたいと感じています。自分は100年周期で動く運命なのだなと感じています。20代はパリで過ごし、見るもの聞くもの、口にするものすべてが新鮮な中で多くを吸収しようと努力し、30代は帰国して、パリで培った力を発揮すべくがむしゃらにがんばりました。そして40代になって、この立ち位置に。感慨深いです」と、料理人人生を振り返る。

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    「盛りつけたときに、皿自身が前面に出ることなく、本当の意味で料理そのものを引き立ててくれるから」と、ベルナルドの皿を愛してやまない関谷氏。今回の料理では平目のダミエ仕立てに使用 。
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    刃物の里越前に、昭和初期に創業した高村刃物製作所の包丁を愛用。伝統を守りつつ常に新しい切れ味を追求した包丁は驚くほど鋭く永切れし、他の包丁は使えないほどと絶賛する 。
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そこまで上り詰めた関谷氏だが、料理人を目指したきっかけはなんだったのであろうか。聞けば、高校時代に大学生像に魅力を感じられず、興味の持てるものを探っていた中で、料理というものへの思いが強くなっていったのだという。調理師学校を卒業したのちは、ホテルで2年ほど働いたが、本場の料理への憧れと強い好奇心がすぐにパリへと向かわせた。当時三つ星の名店もいくつか修業先としてまわり、多くの経験を積んだ。アラン・サンドランス氏の「ルカ・カルトン」で働いたときには、3〜4回ほどしか、サンドランス氏本人と話せなかったが、ワインペアリングを確立した理論派としての考え方に影響を受けたという。また、「ギィ・マルタン」では、縦横無尽に各国の食材を使いながら、最終的にはフランス料理の皿として完成させていく感性に魅了されたとも。

こうして、若い感性で様々なことを吸収しながら成長していく中で、ロブション氏の店で、鳩とフォアグラをキャベツで包んだ料理を食べる機会を得た。その完成された滋味に感動し、「ああ、ロブションの下で働いてみたい」と思ったそうだ。ちょうど仕事のステップを変えたいという時期でもあり、「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」で働くことを志願した。「当時は、ラトリエができてちょうど2年たった頃で、カウンタースタイルのフレンチが定着し始めたところで、そのスタイルを学びたいという思いもあったんです」ときっかけを話す。そして、働き始めてから、初めてロブション氏に会うことになるわけだが、氏が店に来る日は厨房に大変な緊張が走ったという。絶対ミスは許されない。そんな中で、氏から学んだ一番大きなことは、料理をする上で素材を生かすこと、だそうだ。料理人なら誰もが言うことではあるが、ロブションの下に入って、真の意味で、より強く意識するようになったという。それと、一皿の中での素材の取り合わせ方。それ以上でもそれ以下でも決してない、完璧な組み合わせを創り出す鋭敏な感覚を、やはり強く意識するようになったそうだ。

「しっとりと蒸し上げた平目 黒トリュフと蕪のダミエ仕立て」。周囲に流したソースは、蕪のクーリに黒トリュフとジュドポワッソンを加えたもの。繊細な平目の味わいにトリュフの香りを効かせたぜいたくな逸品。

さて、今回の料理は、言わずと知れた、ロブション氏のスペシャリテ。一皿目の「キャビア アンペリアル ロブションスタイル」は、蟹、キャビア、カリフラワーのクレーム、甲殻類のジュレという、美味ここに極まれりという組み合わせだ。二皿目は「しっとりと蒸し上げた平目 黒トリュフと平目のダミエ仕立て」。ダミエとはチェッカーボードの意味。旨みの強い肉厚の平目を蒸し上げ、冬が旬の平目と黒トリュフを重ねたものだ。いずれも最小限の素材数で深淵な宇宙のような味世界を構成しているのがよくわかる。

野菜に着目して関谷氏に聞いてみると、カリフラワーも蕪も契約農家で手塩にかけて育てられたものだという。聞けば、農家まで、種つけや除草などを手伝いにしばしば足を運ぶそうだ。もちろん素材の状態を見極めるためではあるが、生産者のもとを訪ね、地方の空気を吸うことが、料理のインスピレーションを得ること、ここにもつながるそうだ。コロナ禍以降、畑や漁港、畜産業まで、かなり多くの生産者のもとを訪れていたという。そうしたことの積み重ねが、素材を生かし切るというポリシーにもつながっていくのであろう。

「キャビア アンペリアル ロブションスタイル」。甲殻類のジュレを皿に流し、その上に蟹の身をぎっしりと詰めてセルクルで抜き、上にはキャビアを、周囲にはカリフラワーのクレームを絞り出している。

そして関谷氏は「今の自分の最大の責務は、ロブションのレガシーであるスペシャリテを、正確に作り伝えていくこと」だと襟を正す。将来的には自分の色も出していきたいが、今は、お客様もスペシャリテを求めている以上、それが何より大切 なのだと。珠玉のレシピというものは、具体的には、どのようにして受け継がれているのであろうか。「もちろん、数字化されたレシピは残されているのですが、数字通りに作るだけではダメなんですね。レシピのバックグラウンドというか、裏側というか、それをきちんと理解しないと作れない。氏のクオリティーには近づけないんです。それを若い子たちに継承していくのも私の仕事です」

着任したばかりの今、すべてがこれからという中で、あえて、将来の夢を聞いてみた。「総料理長という今の役職に着任した、しないにかかわらず、『フランス料理の職人として、頂点を極めてみたい』、そう思っています。そのためには今まで以上の努力が必要であることもよくわかっていますが、喜んでいばらの道を歩き、辿り着いてみたい、みせると思っているのです」と力強く答えてくれた。

そのゆるぎない崇高な決意を聞いて、これからのフランス料理界は明るいと、清々しい気持ちになった。

●ガストロノミー “ジョエル・ロブション”
東京都目黒区三田1-13-1 恵比寿ガーデンプレイス内
TEL03-5424-1338/03-5424-1347

※『Nile’sNILE』2022年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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