1974年、東京都生まれ。中学卒業後、調理師専門学校へ通い、都内のレストランなどで修業を積む。24歳で渡仏。「オーベルジュ・デ・シーム」、南仏「オーベルジュ・ラ・フニエール」などの星付きレストランへ。帰国後、26歳の若さで浅草に「オマージュ」をオープン。自分らしいフレンチをつくり続けている。
「物心ついた頃から料理が好き。その流れで、将来は料理をやりたいなと思った」と言う荒井氏。言葉だけを聞くと、子どもらしい、ぼんやりとした夢のようだが、それは違う。中学を卒業するや、迷わず調理師専門学校に進んだのだから、相当固い決意あってのこと。「やりたいことを前に寄り道は不要」とばかりに、15の春、料理人への道をまっしぐらに突き進む人生を始動させたのだ。
では、なぜフランス料理だったのか。それは、学校でフランス料理を教えてくれた先生から、「うち(ピアジェ)で一緒にやらないか」と誘われたから。荒井氏のこういう真っすぐで素直なところが、良い縁と運を引き寄せるのかもしれない。もっとも最初から順風満帆とはいかない。むしろ苦難続きの厳しい船出だった。「2年間はサービスをたたき込まれました。しんどかったことしか覚えていませんが、修業とはそういうものだと思って、懸命に励みました。とはいえ正直、早く魚をきれいにおろせるよう、肉を掃除できるようになりたい、もっともっとたくさんの技術を身につけたいと、気ばかり焦っていたことを覚えています。フランス帰りの先輩の仕事ぶりに触発されたのも、この頃のことです。でもやっと調理場に入れたと思ったら、その月に『1週間後に店を閉める』って言い渡されたんですよね」折からのバブルの崩壊と飲食業界に吹き荒れたイタリアン・ブームのあおりを受けて、店が消えてしまうとは酷い……まだ10代の荒井氏は、別の店を経て、青森の十和田湖畔にあるリゾートホテルへ。「満席になると60人入る広いお店を、4人くらいで回さなくてはいけなかったので、それをスムーズに運ぶシステムや動き方がすごく勉強になった」と言う。
その後、胸の内でしだいに膨らんでいったのが「フランス行き」への思いだ。「一通り仕事ができるようになったし、そろそろ……」という気持ちが強くなった頃、チャンスが到来した。当時ミシュラン二つ星を獲得したばかりのオーベルジュのシェフ、レジス・マルコン氏がイベントで来日することになり、その厨房アシスタントの募集があったのだ。「憧れのお店でしたから、迷わず応募し、スタッフになることができました。そして最終日、フランス語の辞書と格闘しながら『あなたのお店で働かせてください』と書いた手紙を渡したら、何とOKをもらえたのです。期間中、言葉を交わすこともなく、僕の存在も認識すらされていなかったと思うのですが、運が良かったというか……振り返ればマルコン氏との出会いは、料理人人生の中でも一番大きなトピックでしたね」
残念ながら家庭の事情で、1年ほどで帰国を余儀なくされたが、行ってよかったと心底思っているという。「これが本場だ、という抗いようもない世界で、フランスの空気にどっぷり浸かってがんばった、そのままのテンションで自分の店を持ちたかった」と言う荒井氏は、帰国して1年後、26歳の若さでオマージュをオープン。「築地でバイトをしながらお金をため、でも足りなくて、結局は父が土地を担保にお金を借りてくれて、やっとの思いで」自宅兼店舗にして一国一城の主となったわけだ。
ところが最初は大苦戦。「おいしい」と話題の人気店になるには3年の歳月を要した。自分なりに古典料理を再現したり、新しい技術を試したり、試行錯誤の連続だったようだ。そして9年目の2009年、現在の場所に移転し、新たな一歩を踏み出した。「ありがたいことに、昼夜170食に上る大盛況でした。ただ『このまま忙しさにかまけずに、自分のやりたいレストランの料理とは何かをちゃんとちゃんと、追求していくべきではないか』という思いが芽生えました。そこへきて東日本大震災を境に客数が激減。それをチャンスと捉え、数よりも高いクオリティーを提供する店へと舵を切り直したのです」
その時に目標として掲げたのが「ミシュランの星の数」。18年には二つ星を獲得するに至っている。荒井氏に改めて「料理哲学は?」と問うと、「当たり前ですが、『おいしくつくる』の一言に尽きます」と一言。具体的には「これまで学んできたフランス料理を見直しつつ、自分のフィルターを通して感じる今の時代にフィットする“味付け”を加えたい。言うなれば、温故知新的な感じですね」とのことだ。また「今後は海外からのオファーに応え、レストランのプロデュースやイベントなどにも積極的に取り組みたい」考え。荒井氏にとってそれは「料理人人生における思い出づくり」なのだという。
●オマージュ
東京都台東区浅草4-10-5
TEL 03-3874-1552
※『Nile’sNILE』2022年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

