日本料理を楽しく、自由に 傳

長谷川在佑

Photo Haruko Amagata Text Izuzmi Shibata

長谷川在佑

毎日届く野菜を見て内容を決める「畑のようす」では、25種類以上の野菜を使用。「炊き合わせ」のイメージで、それぞれの野菜に最適な調理を施して盛り合わせる。長谷川氏の友人が千葉で作る野菜も大事な戦力だ。

2008年1月、長谷川在佑氏は神保町に日本料理店「傳」をオープンした。じきに、ジャンルを超えた自由な発想の料理、明るく細やかなサービスで注目を集め、海外からも注目されるように。2016年の神宮前への移転後は、さらにパワーアップ。世界を飛び回り、楽しみながら料理に向き合う。

長谷川在佑(はせがわ・ざいゆう)
1978年東京都生まれ。高校卒業後、「うを徳」(東京・神楽坂)で5年間修業。その後いくつかの店で働き、2008年、29歳の時に神保町に「傳」をオープン。2016年、神宮前に移転する。

人情の街、大人の街。神楽坂で育ちました

私は神楽坂で育ち、芸者だった母が持ち帰ってくれる料亭のお弁当や料理を楽しみに食べるような子供でした。この環境は、日本料理人としての味のベースを形作るのに役立ったかもしれません。ただ、それ以上に、人情が残る街で育ったことにありがたみを感じています。子供の頃から街の人たちに「おい、坊主!」なんて声をかけてもらえるような、人と人の関係が濃い中で過ごした。そのことが、今の自分につながっている。料理店は、突き詰めれば、人と人のコミュニケーションの仕事ですから。

高校を卒業したのち、神楽坂の老舗料亭「うを徳」で5年間修業しました。昔ながらの厳しい修業でしたが、女将さんや大将、お客様が皆、粋で……。そんな“大人のかっこよさ”に憧れましたね。その後いくつかの店で働いたのち、修業の仕上げとして、神楽坂にある母の小料理屋で1年間働きました。カウンターの中で料理を作るのですが、お客様は私が追い回しだった頃から知っている旦那衆や鳶の親方といった面々。最初は「おまえの作ったもんなんか食べれないよ!」というところからスタート(笑)。そこからなんとか食べてもらおうと工夫して、努力する。大変でしたが、料理人として成長できた、得難い経験でした。

土鍋ご飯はインパクトが大事!

当店では必ず、締めに土鍋の炊き込みご飯を提供しています。具はカラフルな根菜や牛肉など、蓋を開けると「わぁ!」とテンションの上がる内容です。外国からのお客様も多いので、わかりやすさを重視します。彼らにとって、白いご飯の魅力を理解するのは、やはり難易度が高いはず。誰もが、心から楽しめる料理を心がけています。

写真の土鍋は、鎌倉で活動する友人で同世代の陶芸家、西村百合さんの作品。ぬくもりとしゃれっ気のある雰囲気が気に入っています。他の器も、自分と世代の近い作家の方々の品を使うことが多いです。応援したいという気持ちもありますが、ものづくりに向き合う姿勢に素直に共感できるのは、私にとってはやはり同世代の仲間なのです。

好みのお米は、粒が大きめの静岡産「にこまる」

お米は静岡の「にこまる」を使うことが多いです。まだあまり知られているお米ではありませんが、食味がよく、粒が大きく、モチモチした食感。締めの土鍋の炊き込みご飯の、存在感のある具とよく合うのです。

もともと静岡のお酒をお出しするなど、静岡は親しみを持っていた県なのですが、2015年に日本平のイベントで行った際に静岡県の食材をいろいろ探したことから縁が深まりました。今、うちの店で使っている野菜も魚も、静岡産が多いです。魚は、焼津の前田魚店の前田尚毅さんにお世話になっています。野菜は、同じ静岡県内でも河川をまたぐと味が変わるのが面白いですね。山の方には、キノコを採りに行くこともあります。

伝統的な日本料理を大胆にアレンジし、時にはユーモアを織り込んだ品々は、ストレートなおいしさとインパクトを備えている。サービスはあくまでもフレンドリーで明るい。店の雰囲気はナチュラルで活気にあふれる。――長谷川在佑氏と氏のチームが作り出す「傳」は今、世界中から強い支持を集める日本料理店だ。海外のトップシェフたちも数多く訪れ、コラボレーションの誘いも絶えない。

「日本料理には崩してはいけないルールがある」と考える料理人は多い。お客にも、「日本料理はおとなしい」、「静かで、しみじみとした味わい」と思われがちだ。しかし、「本当はもっと自由でいいはず。とにかく、お客様に喜んでもらいたい」と、長谷川氏は考える。その結果生まれるのが、「フォアグラ最中」や「畑のようす」、飯蒸しなどの詰め物をした“日本料理の手羽餃子”「傳タッキー」など、楽しく、おいしく、記憶に残る料理の数々なのである。

コースの一品目に必ず出す「フォアグラ最中」。白味噌漬けにしてから火を入れたフォアグラ、きざんだ干し柿、角切りにしたいぶりがっこを挟む。日本料理のイメージを覆す素材使い、手で持って食べる楽しさが印象的。

「自分の表現とか、世界観はないんです」と笑い、徹底して“自分よりお客”を貫く長谷川氏。オープンから11年が経ち、今では“アジアのベストレストラン”でトップ3の常連、“世界のベストレストラン”で11位……という具合に高い評価も獲得しても、その姿勢は変わらない。「最初から、店にお客さまが来てくださったわけではない。ゼロからのスタートで、とにかく全力を尽くして喜んでいただき、また来ていただくしかない。その時の気持ちは、この先も忘れないでしょう」と話す。

「海外からシェフが来たら、そのシェフの店に行きたいと思うでしょう?」と、好奇心のままにスタッフとともに世界各国を訪れ、さまざまな味の体験を重ねる。そして「自分は日本料理を修業してきた。その技術を用い、自分のできることで人を幸せにしたい」と、自然体で料理に取り組む。

チームとともに料理を作ることが楽しくてしょうがない、そんな長谷川氏の気持ちが伝わる「傳」での食事は、人を自然に笑顔にする。

● 傳
東京都渋谷区神宮前2-3-18 建築家会館JIA館
TEL 03-6455-5433
営業時間 18:30~20:00(L.O.)
日曜定休 ※不定休あり

※『Nile’s NILE』2020年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

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真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
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ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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