京都に現れるフランスの風
パティスリー・サダハル・アオキ・パリ

パリをベースに東京、横浜などにも店を展開して活躍するパティシエ、青木定治氏。氏の関西初出店となる「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ 烏丸御池店」が京都の地に、4月1日にオープンした。和菓子文化の中心地であるこの街で、フランス菓子の神髄を極める青木氏はどのような創作を見せるのか。大きな期待を集めている。

Photo Masahiro Goda Text Izuzmi Shibata

パリをベースに東京、横浜などにも店を展開して活躍するパティシエ、青木定治氏。氏の関西初出店となる「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ 烏丸御池店」が京都の地に、4月1日にオープンした。和菓子文化の中心地であるこの街で、フランス菓子の神髄を極める青木氏はどのような創作を見せるのか。大きな期待を集めている。

青木定治(あおき・さだはる)
1968年、愛知県生まれ。91年、渡仏。98年、アトリエを開設。2001年、6区にパティスリーを開店し、その後、パリや日本で店を展開。フランス最優秀パティシエへの選出を始めとするさまざまな受賞歴を誇り、世界で注目されるパティシエとして活躍する。今年4月には京都に烏丸御池店をオープン。

独自の文化哲学を持ち、流行に流されない本質にベースを置く街、パリ。日本でもひときわ文化を尊重し、その芯を常に継承してきた街、京都。両都市は伝統に裏打ちされた豊かな食文化、菓子文化が生活の中に根付いているという点でも共通している。そのため、パリを拠点に活躍する青木定治氏にとって今回の京都への出店は、独特の高揚感を持つ挑戦となっている。氏は「京都には鍛えてもらうつもりで来ました」と笑う。

その京都の烏丸御池店限定で販売されるのが、抹茶と小豆のミルフィユ「ミルフォイユ ダイナゴン オ マッチャ」だ。抹茶の風味をしっかりと出したクリームと、丹波大納言を用いたつぶしあんを、密度がありつつも軽快な食感のフィユタージュ(パイ生地)で挟んでいる。

青木氏が長年「使いたい」と追い求めてきた丹波小豆。烏丸御池店限定商品「ミルフォイユ ダイナゴン オ マッチャ」では、その産小豆で作ったつぶしあんをたっぷりと用いる。このあんこがフィユタージュ(パイ生地)、抹茶クリームと合わさり、フランス菓子らしい立体、重層的な表現の一部となっている。

まず注目したのは、あんこ。青木氏はパリの店を開業した当時から、あんこを用いた商品を限定で作っていた。「フランス菓子のベースといえばバター。そしてバターとあんこはとてもよく合います。名古屋の喫茶店でも、バタートーストにあんこを添えるでしょう?(笑)」と、出身地の名古屋の食文化になぞらえて説明する。

そして、パリにあんこを紹介するなら生半可なものでは魅力が伝わらない。そこで青木氏は、茗荷谷の和菓子の名店「一幸庵」で1カ月間、小豆の炊き方を学んだ。「和素材の場合は、日本で、日本人が旨いと思ったものをパリに持って行きたいですから」。青木氏は日本の「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」で、パリでフランス人が旨いというものを持って来て売っている。あんこをパリに持って行く際も同じ姿勢で取り組んだ。

1段目にあんこを絞る。「小豆の最高峰」と呼ばれる丹波大納言製。

こうした綿密な下準備を経て、小豆とショコラを入れたクロワッサン、薄く敷いたクレームダマンドに小豆をのせて焼き上げたガレットなど、あんこを用いた商品が完成。「バターのたんぱく質の旨みと、小豆のコクのある甘みが合うんですよ」。そしてこれらの商品は、普段から青木氏の店に通い、その菓子にいつも高い期待を寄せるパリの客たちに受けた。本物の風格と哲学があれば、新しいものを受け入れるパリの人たちの眼鏡にかなうのだ。

たっぷりと挟んだあんこはフィユタージュにも負けない存在感。

さて、今回京都であんこを用いた品を提供するにあたっては、彼の原点である「素材」への強い探究心が原動力となった。

前述した通り、このミルフィーユのあんこには丹波産の小豆が使われている。丹波産の小豆は、青木氏が長年にわたって「使いたい」と熱望してきた素材。それが今回かない、京都で自信を持って提供できるあんこの完成を支えた。「丹波の小豆は大粒で、かつ皮が薄い。皮が薄い小粒、皮の厚い大粒は他の産地でもあるけれど、皮の薄い大粒はここだけ」。これにより、皮の風味を備えながらもなめらかな食感のつぶしあんが実現する。もちろん丹波の小豆は風味も格別で、品があり繊細、それでいてコクと味に確かな存在感があることで知られている。

2段目に絞るのは抹茶クリーム。上質な抹茶を惜しまず使う。

ちなみに「これ」と認めた素材のみ使うのは、ミルフィーユの他のパーツ――抹茶クリームとフィユタージュでも貫かれている原則だ。

抹茶は「フランスで活躍する、日本人のフランス菓子職人」である青木氏の名を知らしめた素材。まさに彼の武器というほど重要な存在だ。通常氏の菓子に用いられるのは、愛知県西尾産の抹茶だが、今回のミルフィーユには宇治の抹茶を合わせた。 そして、あんこと抹茶クリームを支える土台となるのがフィユタージュ。「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」では、日本でも、パリで折り込んだパイ生地を空輸して用いている。つまりパリと全く同じ材料が使われているのだ。それはつまり、フランスでも最上級の誉れ高いエシレの発酵バター、精製度が低く粉の香りや旨みを豊かに感じるフランス産小麦粉が生きた生地を、日本でも体験できるということだ。

カラメリゼしたフィユタージュと同じ幅にカット。

なお焼き上げたフィユタージュには、表面に砂糖をふってコテで熱し、カラメル化させる作業を施す。この作業をカラメリゼと呼ぶが、通常のミルフィーユでは2回のところ、今回の抹茶とあんこのミルフィーユでは3回行う。「カラメルとあんこも、とても相性が良いのです」と青木氏。たしかに、カラメル独特の香ばしさがあんこのコクに厚みを与え、その印象と存在感を引き立てている。

こうして、丹波産小豆で作るかぐわしさと芯を備えたあんこ、上質な抹茶の風味とコクをはっきりと出したクリーム。フランスそのもののバターと小麦粉の香りを備えたフィユタージュが織りなす、実に贅沢なミルフィーユが生まれた。

このミルフィーユとは別にもう一品、青木氏は京都であんこを用いた品を提供する。それは、チョコレートテリーヌとあんこを組み合わせた一皿。抹茶ソースも添えられる。

味わいも舌触りもねっとりと濃厚に仕立てたチョコレートテリーヌに、あんこを合わせた一皿。カカオの香ばしさとコクは、あんことよく調和する。舌の上でテリーヌが溶けると、カカオの風味と上質な油脂がほどけ、一気に豊かな味わいが口を満たす。この中で、あんこも持ち味を発揮。小豆の素材感が強く引き出される。

今回新たに開発されたというチョコレートテリーヌは、濃厚で香り高く、ねっとりとした舌触り。上質なチョコレート、バター、砂糖、卵を90℃ほどの低温で1時間半かけてやさしく加熱して作る。

ここにあんこが合わさると、不思議なことに小豆の素材感がグッと高まって感じられる。リッチなチョコレートテリーヌと比べると、あんこはシンプルで繊細。ただし、テリーヌの油脂分やチョコレートの厚みのある風味が合わさることで、一転して味わいに奥行きが出るのだ。

あんこは、フィユタージュとの組み合わせでは、立ち上るバターの香ばしさとコクで引き立てる。一方チョコレートテリーヌとの組み合わせでは、チョコレートの凝縮感と香りでじっくりと個性を表す。同じフランス的なあんこの表現でも、これだけの幅を青木氏は作り出す。

今までも、これからも、素材に対して旺盛な探求心を持ち続ける青木氏。丹波の小豆や栗にワクワクしていると話し、こうして京都に拠点を得たのだから抹茶探しにも取り組みたいと語る。「新しい素材との出会いは、新しい挑戦。僕もスタッフもグレードアップしていきたいですね」

●パティスリー・サダハル・アオキ・パリ 丸の内店
東京都千代田区丸の内 3-4-1 新国際ビル1F
TEL 03-5293-2800

※『Nile’sNILE』2022年4月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
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