煌めきを繋ぐストイシズム
ベージュ アラン・デュカス 東京

憧れの的であり続けるファインダイニング。その華やかな舞台を支える、総料理長・小島景氏。アラン・デュカスの世界観を守りながら、自由に発想の翼をはばたかせて、比類なき美食を紡ぎ出す。

Photo Masahiro Goda Text Hiroko Komatsu

憧れの的であり続けるファインダイニング。その華やかな舞台を支える、総料理長・小島景氏。アラン・デュカスの世界観を守りながら、自由に発想の翼をはばたかせて、比類なき美食を紡ぎ出す。

小島景(こじま・けい)
1964年東京生まれ。18歳で料理人の道に入り、リヨンを振り出しに、ニースなど計16年間研鑽を積む。帰国後、鎌倉に店をオープンするも再渡仏。モナコの「ル・ルイキャーンズ アラン・デュカス」で副料理長を務めた後、帰国。アラン・デュカスのプロ対象料理学校ADFの講師、ブノワ総料理長を経て、現職。

フランス料理界に君臨するデュカス・パリの日本の総本山として、また、シャネルグループとのコラボレーション店として、オープン16年目を迎える「ベージュ アラン・デュカス東京」。その総料理長を任され、11年間厨房をまとめ上げてきたのが小島景氏である。小島氏とデュカス氏の関係は深く、長く、日本とフランスを行き来しながら、何十年にもわたってファミリーの一員として、確固たる信頼を得ている。

小島氏の料理人人生は、高校時代に、雑誌でフランスから帰国したシェフの記事を読んで憧れを持ったことからスタートした。その後、サントリーが経営していた海外支店を持つ鉄板焼き店や、イタリアンで働くも、なかなか海外への扉が開かない。そこで当時、サントリーがやっていたフランス料理店のフランス人支配人に相談し、リヨンの店を紹介してもらうことに。ようやく手にしたフランス行きの切符であった。

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    白熊のフィギュアをペーパーウェート代わりに。オーダー票の重しに使うのにほどよい重さで、
    どうしてもこれがほしく、玩具店で買ったという愛着のある品。小島氏にはそんなおちゃめな一面も。
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    ずらりとそろったナイフには、それぞれに合わせた用途が。20年以上使用しているものもあれば、5~6年で買い替えるものも。一番小さなものは、野菜の皮むきなどに使う。
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最も影響を受けた料理人を聞くと、フランク・セルッティ氏の名が挙がる。リヨンの後、ニースで入店した店のシェフであり、デュカス氏の右腕と言われる人物だ(当時はニースで小さな店をやっていた)。「素材の切り方や火入れ、ソースなど、料理のすべてを、フランクから学びました。また、料理だけでなく、人となりもです。決して、人としてどうあれ、と言うわけではないんですが、存在自体が教えてくれました」と。デュカス氏からは社会人として成長しなければ、一流の料理人になれないということを、氏の姿勢を見ながら学んだという。そんな思いから、今も小島氏は日々精進する。

これまでで一番印象に残った皿を尋ねると、即座にフランクの店で食べた、温野菜だけで構成された料理との答えが返ってきた。フランスは農業国であるが、レストランを食べ歩く限り、あまり野菜を食べられない。だからこそ、大変な衝撃を受けたそうだ。「デュカスもフランクも、料理の基本は農家、野菜なんです」と評する。その二人のもとで長年過ごしたことが、小島氏の料理の方向性を決定づけ、今に続く、代名詞とも言われる、鎌倉野菜の料理へと繋がっていったのであろう。

本日の一皿目の「冬野菜、黒トリュフ」は、まさにそれ。使っている野菜は、にんじん、クルジュ、ビーツなど、9種類。それらを蒸したり、ゆでたり、各野菜に合わせて火を入れ、今が旬の黒トリュフをスライスして散らす。ソースもクルジュがベースで、まさに、体の内からきれいになれる、そんな一皿だ。

「フランスから帰って日本で店をやるときには、ベージュの料理長という職につこうがつくまいが、鎌倉の市場で毎日野菜を買って、担いで店に行き、料理をしようと決めていました」と小島氏。生産者と密にコミュニケーションをとりながら、最良なものを最良の時期に、必要なだけ毎日購入するという、きめ細かな差配があってこそ、この深い滋味に満ちた野菜の一皿を作り続けることができるのだろう。

「冬野菜、黒トリュフ」すべて小島氏が鎌倉の市場で購入した野菜を、それぞれの持ち味を引き立てるような火入れをして、盛りつけ、香り高い黒トリュフを散らす。本日は、にんじん、ブロッコリー、ビーツ、蕪、モモノスケという蕪、ラディッシュ、冬瓜、クルジュ、キャベツ。

一方、季節のメニュー替えなど、日頃から常に新しいメニューのことを考えているという。そのストイックさが、料理人としての小島氏の根幹でもある。今回、作ってくれたもう一皿の「尾長鴨と蝦夷鹿、京都 田鶴氏の聖護院大根、ポワロー」の発想の根源は、実は日本の鍋ものだそう。というのも、鴨と鹿が一皿に混在した料理はフランスではあまり見ない。それをあえて一緒に盛り込み、大根やポワローという、鍋の素材を集合させた一皿に仕立てたからだ。なんと、新聞の広告写真を見て着想を得たというのだからその柔軟性と探求心には驚かされる。作り方は、備長炭で火を入れた鴨と鹿を、真っ黒に焼いたポワローの皮をはずした柔らかな芯で巻いて仕上げ、昆布だしで煮てから鴨のブイヨンを吸わせた、柔らかな聖護院大根を添える。最後にソースポワブラードでまとめて、正統派のフレンチに仕上げていることは言うまでもない。

「新作を考えるときは、家にある無数の本を見たり、雑誌やテレビ、スマホ、町を歩いて気になったことなど、何でもが、料理のインスピレーションになります。それを試作して、新しいレシピとして本国のデュカスに送ります。ベージュを始めた頃から考えると、ずいぶんと、自由に、自分の頭で大胆に考えられるようになりました。それまではどうしても、経験してきたものの中からということが多かったですから、近年の進歩と言えますね」と言う。結果、新作に関して何か言われることはまずないそうだが、それも、デュカス氏から全幅の信頼を得て、任されているからこそのことであろう。

「尾長鴨と蝦夷鹿、京都 田鶴氏の聖護院大根、ポワロー」右側が尾長鴨の胸肉、左が蝦夷鹿のロース。香ばしく炭火で火を入れたのち、ポワローで巻いて仕上げる。聖護院大根は、昆布だしで煮た後に鴨のブイヨンを吸わせた優しい味わいに。白ワインで仕立てたソースポワブラードを添えて。

もう一つ、二皿目に用いた備長炭にはこだわりがある。ベージュの厨房はオール電化で直火が使えない。6年ほど前から直火の可能性に惹かれ、七輪を持ち込んで炭火を使うようになったそうだ。備長炭は業者から仕入れていたが、備長炭のことを学びたくて、インターネットで製造元を調べ、片っ端から電話したが、直接の取引はできないと断られ続けた。高知県大月町の役場に連絡すると、たまたま焼き手が出て、銀座のレストランならぜひ使ってもらいたいと、生産者と繋がることができたという。産地である大月町は過疎化が進み、人が手を入れなければ山は荒れ放題になってしまう。そんな中で炭焼きを次世代に繋いでいくことの、少しでも助けになればと、購入を続けている。同時に、メニューに「高知県大月町産備長炭で焼いた〜」と書き、不特定多数の客やメディアに対して発信することで、わずかではあっても社会貢献に繋げられるのではないかと思っているのだ。

今後の夢や目標を聞くと、少し間をおいて小島氏は答えた。「料理人である自分の夢は、つまるところ、お客様に満足して喜んで帰っていただくこと、それしかないと思います。その上で、少しでも社会貢献に事が繋がることができれば幸せです」

そう話す穏やかな笑顔からは、強い信念が感じられた。

●ベージュ アラン・デュカス 東京
東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング10階
TEL 03-5159-5500

※『Nile’sNILE』2022年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
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