柏井 壽 地方の美食
ガストロノミーツーリズム

食語の心 第142回

食語の心 第142回

たとえば鮨。回転寿司しか経験のないような初心者や外国人客でも愉しめるように、おまかせコース一本にしぼり、派手なステージを繰り広げる。客が撮影しやすいように、わざとゆっくり握り、客の目の前に突き出すように手渡しする。いわゆるエンターテインメント型の鮨屋が、海外の富裕層の人気を集めると、それをまねる店が増えてきた。こうしたパフォーマンス重視の店は押しなべて、客単価が高いからである。こうなると、地味な日本人客を相手にせず、海外の富裕層向けに店造りをした方が効率もいい。ビジネスライクに考えれば、至極真っ当である。

しかしながら、リスクヘッジもまたビジネスとしては重要な要素なのだが、それを無視して、海外の富裕層だけに目を向けてしまった店も少なくない。なぜなら、日本のにわか食通たちが追随し始めたからだ。海外の富裕層に人気の、地方の店はここだ、と紹介する本が売れるという、いわば逆輸入のような現象が起こってきた。インバウンド客層の変化で、もっとも大きな影響を受けたのは、こういう店である。店主いわく、海外からの客がいて、オーバーアクションで喝采するから盛り上っていたのだが、日本人客ばかりだとテンションが上がらないのだという。

「その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、食文化に触れることを目的としたツーリズムのこと」

観光庁はガストロノミツーリズムという言葉をこう定義している。イノベーティブやパフォーマンスは、どう考えてもこの定義には当てはまらないと思うのだが、美食家と呼ばれる人たちを筆頭に、メディアは富裕層向けの店をガストロノミツ―リズムの手本として「推し」てきた。

厄介な隣国相手のことなので、これから先どうなるかは分からないが、この流れは当分続くだろうと思う。富裕層バブルが弾けてから先が、ガストロノミツーリズムの本領を発揮すべきときになると確信している。いぶし銀のような地方の名店に、スポットが当たる時代到来を、期待してやまない。

柏井壽 かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。

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真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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