豊かな緑が茂り、薔薇色の砂岩で築かれた城壁が王都を守っていた。今もその昔の佇まいを残す10km2ほどのメディナ(旧市街地)は、王族の宮殿や豪商や高官の邸宅が点在し、北アフリカ最大ともいわれるスーク(市場)が広がり、中心の賑わい広場は夜になるとネオンが溢れ屋台が犇めく。
伝統工芸に目を奪われる迷路のようなスークには、小さなオアシスのような庭園、涼し気なパティオ、モスクやハマム(浴場)が随所に隠されている。旧市街地には数少ないホテルの中で、ラ・マムーニアは1世紀以上の歴史を誇る、マラケシュのレジェンドといわれている。
アラブ語で農園や庭園を意味するムーニアに相応しく、ヤシ林や果樹園、オリーブ園などが茂る8haの庭園に佇む豪奢なホテルだ。庭園は18世紀、時の王が息子の結婚祝いに贈ったもので、多くの宴の場ともなった。ここに1923年、モロッコ様式とアールデコが融合した壮麗な宮殿風ホテルが開業。
王族はもちろん、欧米の政財界や芸能界の著名人らがこぞって訪れ、エキゾチックな地での贅沢な滞在を楽しんだ。マラケシュ最古のホテルは、今世紀に入り何回か大掛かりな改装工事を経て最新の諸設備も導入したが、往年の優雅な雰囲気を残している。
アトラス山峰を背景に、朝夕に艶やかな薔薇色のファサード。精緻なモロッコ工芸装飾が施された壮麗なエントランスに迎えられる。一世紀を経ても変わることのない佇まいとホスピタリティは、今年も欧米の旅行誌コンデナスト・トラベラーとトラベル+レジャーの世界ベスト・ホテルのランキングで主位に。
ベルベル族の首飾りをモチーフにしたというシャンデリアが輝く壮麗なロビー。満室であっても込み合うことはなく、いつもゆったりと静かだ。心地よいソファで微かな香油の匂いと清涼なミント・ティーに一息つきながらのチェックイン。
案内された鮮やかな色合いの客室は、モロッコの細やかな手工芸が尽くされ、アートのような調度品が随所に飾られ、玉手箱の中に迷いこんだよう。庭園に向かって空け放たれたベランダからは、豊かな緑越しにアトラス山峰が望めた。
長い旅路の疲れを癒しに、モロッコ伝統様式をとり入れたスパへ。開業当時からあった、アラブ圏の清浄観を取り入れた伝統的な浴場(ハマム)が、2500平米に及ぶラグジャリー・ウェルネス施設に生まれ変わった。そんな宮殿風ハマムで、本場のアルガンオイル、黒石、ローズウォーターなどを使った伝統施術に心身を預けた。
体が活性されると、健康的な食欲が沸いた。ホテルではイタリアン、アジア・フュージョン、モロッコなどのレストラン、カフェ、ティールーム、バーなど本格的なグルメから軽食、スィーツなどが堪能できる。ホテルの常連だったチャーチルにちなんだバーにはキューバ産葉巻が並ぶ。その奥にはプライベート感覚で楽しめるミニ・シネマが隠されていた。
ホテルのミニ・ミュージアムの壁に並ぶ、多くの名優や東西著名人ゲストらのポートレートを眺めてから、夕暮れのサハラからの風に誘われて庭園に向かった。テラスの木陰でカクテルを傾ける人たちと笑顔を交わしながら、庭園の散歩道へ。
ヤシの木立に囲まれたプールには、夕暮れの優しい光の中で心地よさそうに泳ぐ人々。朝食は野鳥の囀りを聴きながらプール・サイドでとろう、と思う。涼しげな水音は、庭園を潤す水路に続いていた。野の花に縁どられた流れを亀が泳ぎ、鮮やかな色合いの野鳥が水浴びをしていた。
地上に極楽を再現するというアラブの庭園探索は、まさに楽園の散歩だ。熟したオレンジの香りに導かれて果樹園を抜け、樹齢100年を超えるオリーブ並木を、サボテンの木立の奥に佇むモロッコ様式のレストランへ。香辛料を利かせた地元の風味豊かな前菜の盛り合わせ。ほろほろと柔らかいラム肉と自家栽培野菜もたっぷりのクスクス。
後はルーフ・トップのバーへ。肌ざわりのいいモロッコ・ウールのクッションに寝そべるように寛ぐ。アトラス山脈のシルエット、月明かりに浮かぶモスクの塔。コーランの余韻。ビーズが零れたような旧市街地の夜市の輝き。豊穣な楽園の片隅で、アラビアン・ナイトの夢が待つ、長い夜が始まろうとしていた。
●ラ・マムーニア(La Mamounia)
Avenue Bad Jdid, 40040Marrakech-Medina, Maroc
Tel.+212-524-388-600
問い合わせ先/ザ・リーティングホテルズ・オブ・ザ・ワールド(Tel.0120-086-230)

