ストイックさとバランスと カンテサンス

岸田周三

Photo Masahiro Goda Text Izuzmi Shibata

岸田周三

主役はオリーブオイルと塩。ヤギ乳のババロア、百合根(ゆりね)、マカダミアナッツのスライスという、食感に変化があるものの、いずれも優しい味わいで色も白い要素を合わせる。オイルの香り、塩の歯ごたえが深い印象を残す一品。

12年前、32歳の時にカンテサンスを立ち上げた岸田周三氏。一躍「新時代を作る若手」として話題となり、その後も「時代を牽引する料理人」として注目を集め続ける。しかしそんな熱狂からは、一歩距離を置く岸田氏。冷静かつ圧倒的な集中力で日々料理に向き合う。

岸田周三(きしだ・しゅうぞう)
1974年愛知県生まれ。フランスではパリ「アストランス」のパスカル・バルボ氏の右腕として働く。帰国翌年の2006年カンテサンスのシェフに。2011年にオーナーシェフとなり、2013年に白金から御殿山に店を移転した。

200品、料理を準備していました

今回紹介した塩とオリーブオイル、ヤギ乳のババロアの前菜は、オープン初日から毎日出している料理です。主役は塩とオリーブオイルで、自分の料理はほぼすべてに、この塩とオイルが使われています。いわば味の根幹で、一番こだわっている部分。それに焦点を当てたのが、この料理です。たいていの料理は食材が主役で、調味料は脇役なのですが、ここでは逆。調味料を前面に出し、「これが当店の味です」と、お客様に伝えます。コースの初めのほうに出す、名刺代わりとなる一品です。

この料理が生まれたのは、パリで働いていた頃。自分の店を持った時に出す料理を……と、200品ほど考えて書き留めていたのです。アイデアだけのものもあれば、試作したものもあります。パリでは、修業仲間だった佐藤伸一さん(パリのパッサージュ 53)と、休みの日に毎週、人を招いてテーマに沿った料理を作って出す会を開いていたのですが、そこが試作と訓練の場になりました。

今でもたまにその時のノートを読み返します。「馬鹿げたアイデアだな!」と笑ったり、意外と使えるアイデアもあったり。その中でもこのオリーブオイルと塩の料理は、最初から完成していたタイプの品。12年間ほぼ修正なしで、出し続けています。

トレーナーによる筋トレは効く!

料理人の仕事は、長く続けたいと思っています。小学校の卒業文集に「料理人になりたい」と書いていたくらいなので、やはりこの仕事は好きです。素材と向き合っていて飽きることがないですし、何年やっていても素材との出合い、発見はあります。もっといい料理を、というモチベーションもずっと変わらず高いまま。これは、この先も変わることはないでしょう。

ただ、今年で44歳なのですが、この歳になって思うのは健康の大事さです(笑)。30歳を超えた時はなんともなかったのですが、40を過ぎた頃から別の人間になった? というくらい不調や疲れが出やすくなってしまい……。

それで、今年に入ってから、トレーナーについて本格的な“筋トレ”を始めました。長く料理人を続けるにあたり、今のパフォーマンスを落としたくない。健康な体と健全な精神があってこその、一流の仕事ですから。

週に1度ですが、トレーナーから直接教えてもらいながら鍛えると、今まで自己流でやっていたのと全く違いますね。体型も、前は「痩せている」感じでしたが今は「引き締まった」感じ(笑)。それに何より寝覚めがよいし、朝から全力で働ける。もっと早くからやればよかった、なんて思っています。

オールドリカーの深い世界

ランス修業時代は、「いずれ開く自分の店のために」と、コツコツとワインも買い集めていました。専門店や産地で買うほか、希少なものはオークションでも入手。かなり熱心なコレクターでした。

ただ帰国してからは、もっぱらオールドリカーの世界に引かれるように。飲んでおいしく、勉強すると楽しく、気づいたらその深い世界にすっかりハマっていました。70年代以前のものは、自然の材料で造られていて本当においしいですね。戦中、戦前に造られた希少な品も、専門のオークションなどで買い集めています。

集めたお酒は開けて飲むこともありますし、コレクション仲間からは「もったいない!」と言われますが、店で出す料理にも使っています。コースの中で1品は、オールドリカーがポイントになる品があるかな? ソースやデザートで活躍しますが、やはり味わいは全然違います。集めるだけでなく、料理という出口があるのが自分としてはうれしいですね。

2006年のオープンから12年になるが、変わらぬ鮮度と求心力を保ち続けている「カンテサンス」。“ミシュランが日本に上陸した2008年度版以来、三つ星を獲(と)り続けている”というと華やかに聞こえる。しかし、中心にいる岸田周三氏は常に冷静で、足が地についている。そして、ストイックに料理を追求する姿勢を緩めることがない。岸田氏が料理で「最も大切」と掲げている三つの要素がある。

それは素材を意味する「プロデュイ」、火入れの「キュイソン」、味付けの「アセゾネ」だ。この三つは料理全般の基礎で、言うなれば誰が作る料理においても重要な要素ではあるのだが、岸田氏の場合、これらを突き詰める集中力と深度が桁違いなのだ。――食材は厳選し、それぞれの特徴を徹底的に捉え直す。それをもとに、独自性がありながらも奇抜ではない、意外だけれども必然性のある組み合わせを考案する。

一方の火入れは、ごく丁寧に食材の性質や状態に合わせて行う。そして味付けは、塩の強さ、風味のまとわせ方を計算しながら緻密に、こまやかに調整する。その結果生まれるのが、シンプルであり、かつ圧倒的なオリジナリティーと完成度を備えた料理。強いインパクトを残しながら、食後感がすっきりと軽やかなのも特徴だ。こんなにも料理に真剣に向き合うのであれば、さぞかし料理一徹なのだろう……と思いきや、意外にもあえて「一徹」になることを避けてきたという。

修業時代は「視野の狭い料理人にはなりたくない」との思いから、経営書や自己啓発本も読んだ。目標から逆算して、確実に前進する習慣も養った。「とにかく前世代とは違う、新世代の料理人に自分はなる」と、固く決意していたと話す。岸田氏がものすごい熱量を料理に傾けていることは、誰もが認めるところだ。料理がそれを証明している。と同時に、人としてバランスのとれた在り方も忘れない。

その両方があるからこそ、岸田氏とカンテサンスは進化を続け、そして人を引きつけ続けることができる。

● カンテサンス
東京都品川区北品川6-7-29
ガーデンシティ品川御殿山1F
TEL 03-6277-0090
営業時間 12:00~13:00(L.O.)18:30~20:00(L.O.)
日曜を中心に月6日定休

※『Nile’s NILE』2018年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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