フランスを代表する数々のレストランでシェフを務めたうえで、自分自身が追求したい道を実現しているドミニク・ブシェ氏。その信念は、お客に正統なフランス料理の魅力を伝えること。そして次世代料理人にフランス料理の技術と伝統を継承させることだと語る。
1952年フランス・シャラント地方生まれ。ジョエル・ロブションのもとで働いたのち、「トゥール・ダルジャン」と「オテル・ド・クリヨン」の総料理長を務める。2004年に独立しパリ8区にレストラン「ドミニク・ブシェ」を開業。2013年に日本初の店を銀座にオープン。現在はパリ、東京、金沢で4店を展開する。
シンプルで深い、ブール・ブランのソース
私は料理で、ソースを最も重視しています。今回紹介するオマールの料理も、ソースがポイントとなっています。
この料理は、牛ひき肉とマッシュポテトを重ねてオーブン焼きにした伝統料理「アッシ パルマンティエ」が発想の出発点となっています。牛ひき肉の代わりにほぐしたオマールを使い、オマールの殻からとる濃厚なビスクソースで和えて、エストラゴンで香りづけ。これをマッシュポテトとともにタンバル型に整えます。さらにパン粉をふり、オーブンで焼いて、香ばしさと食感をプラス。
周りに流したソースは、フランス料理のごく基本のソースであるブール・ブラン。バター、エシャロットのみじん切り、白ワイン、白ワインヴィネガー、レモン汁というシンプルな材料で作る、そしてだからこそ料理人の腕、ソースへの向き合い方が如実に表れるソースです。酸味とバターのバランスをどうとるか? エシャロットを白ワイン、白ワインヴィネガーでどれだけ煮詰めるか? 余分なものを入れなくても食べた人の印象に深く残るソースは作れる。ブール・ブランは、その典型です。
オマールを和えたビスクソース、周りに流したブール・ブラン。互いを高め合う2種のソースの融合も見どころの一品です。
料理を飛躍的に高める魔法
ソースは手間のかかるもの。今ではフランスの料理人ですらおざなりにすることが少なくありません。しかし、ソースはフランス料理の技術の結晶であり、フランス料理を他の料理とは一線を画する存在たらしめているもの。時代を超えて引き継がれるべきものだと思います。つまり、私のソースへの思いは格別なのです。ですから、もう少しソースの話をさせてください(笑)。
フランス料理の基本構成は、主食材、ソースあるいは食材から出るジュ(エキス)、付け合わせです。今は形を崩す人も多いですが、私自身は先人の技に敬意を払い革新を加えながら、次世代に伝える役割を担うのが自分の道、という信念を持っています。
その中でも大事にしているのは、シンプリシティ。基本の3要素を調和させ、研ぎ澄ませ、時代に合った軽さ、香り高さを持たせること。昔は重いソースがたっぷりと添えられた料理もあり、そのイメージが強いかもしれませんが、ソースは時代とともに軽やかな変容を遂げてきました。しかし実際は、内容と量に気を配れば、ソースは料理を飛躍的に高めてくれる。当店では、多くのお客様が「ソースがおいしくて完食した」とおっしゃいます。ソースは、やはり次世代に引き継がれるべきフランス料理の宝です。
若い人と働くのが大好きです!
私は料理に関しては伝統的なスタイルを尊重しますが、人としてはオープンな性格だと思います。幸運にもこうして日本に3軒を展開していますが、とにかく私は昔から旅行をすることが多い。最近は香港、オーストラリア、タイ、シンガポール、イタリア、スペイン……仕事でたくさんの国を訪れました。シェフは、旅をするべきです。でないと固定観念で、小さくものを考えてしまいます。私も旅先では発見が多く、インスピレーションもたくさん得ています。
そして年を重ねてもオープンでい続けられるのは、若い人と働くのがとても好きだからだと思っています。パリの店も、東京のこの店とビストロも、金沢の店も、シェフは20代後半や30代前半の若者。ドミニク・ブシェ トーキョーの田中耕太シェフも31歳。皆、仕事に対する高いモチベーションを持っています。若い人のやる気、向上心が、私のチームの原動力になっているのです。
歴史的名店「トゥール・ダルジャン」、さらにパリのパラスホテルの中でも随一の格式を誇る「オテル・ド・クリヨン」の総料理長。ドミニク・ブシェ氏の経歴はまさにきらびやかで、フランス料理の王道を指し示している。そんなブシェ氏が個人として、本当に追求したい料理と店のスタイルを実現したのが、パリと東京・銀座、金沢にある店舗だ。「ドミニク・ブシェトーキョー」の内装は、「アパルトマン」がテーマ。
壁で半個室様に区切られた空間で体験する食事は、まさにシェフの家に招かれたような印象。親密な空気感が心地よい。グレーを基調とした色合いもシックで落ち着きがある。そして料理では、フランス料理の伝統の継承を強く意識する。「私の役割は、伝統的なフランス料理を次世代に伝えること」と、明確に語るブシェ氏。その信念を反映して、店では「エリタージュ」「ジェネラシオン」の2コースを提供する。
――「エリタージュ」は、ブシェ氏の経歴の中で生み出された数々のスペシャリテを中心に構成される内容。まるで、フランス料理の栄光の足跡をたどるような格調と、ブシェ氏のセンスが融合した料理が続く。そして「ジェネラシオン」は、若手シェフたちとブシェ氏がともに作り上げるコース。ブシェ氏から継承したフランス料理の伝統を若手が受け止め、それをみずみずしい感性でどう表現するか、にフォーカスした内容。
伝統を踏まえながらも、現代的なニュアンスをまとっている点が魅力だ。こうして、長い歴史の中で磨かれてきたフランス料理の在り方に強い思いを持つブシェ氏だが、他国の文化に対して非常に開放的で、とりわけ親日家として知られている。昨年の9月にはパリの店に隣接して、日本の伝統工芸や手仕事を紹介する「WASALON」をオープン。また、料理人としては和包丁を使いこなし、「必ず自分で研ぎます。
ほかの人には触らせません」というほど愛着を持つ。料理では伝統を尊重。しかし一人の人間としては、他文化への好奇心が旺盛。この柔軟な姿勢と持ち前のエネルギーで、独自の道で前進を続ける。
● ドミニク・ブシェ トーキョー
東京都中央区銀座1-5-6
銀座レンガ通り福神ビル2F
TEL 03-6264-4477
営業時間 12:00~13:30(L.O.)18:00~20:30(L.O.)
水曜定休
※『Nile’s NILE』2018年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

