今から20年以上前、中国料理に旬の食材を取り入れ、銘々盛りを始めた脇屋友詞氏。現在ではポピュラーとなったこの感覚を大々的に打ち出したのは、脇屋氏が最初だった。その後も料理界の最前線を走り、国内外で活躍。還暦を迎えた今なおエネルギッシュに活動し、中国料理の可能性を広げ続けている。
1958年北海道生まれ。赤坂「山王飯店」などで修業。1996年に「トゥーランドット 游仙境」をオープンし、新スタイルの中国料理を展開。2001年に「Wakiya 一笑美茶樓」を開業。現在は東京と横浜で4店のオーナーシェフを務める。
お客様が心底喜んでくれた、銘々盛り
中国料理の前菜は大皿盛りが伝統ですし、格式もありますし、昔は誰もが「そういうものだ」と思っていました。でも実は遠慮が出るなど、食べる側は不自由が多かったのです。そんな雰囲気を私は感じていたので、伝統に背くことにはなるのですが、ある時、前菜を銘々盛でお出ししたらお客様が本当に喜んでくれた。この経験で吹っ切れ、少量多種で一人分ずつ盛ろう、季節感を出そう、五味を意識しよう、食感や彩りにも抑揚をつけよう……と、楽しみながら考えたのが今回紹介している前菜です。
料理名は「九つの喜び」。「九」は中国で「久」と同じ発音で、お祝いの数字です。食材も味もいろいろ、伝統的な品から和を感じる品までを織り交ぜ、一口サイズの9品を盛り合わせています。
ちなみにこの前菜の前には、例えば晩秋なら、上湯(シャンタン/中華スープ)で溶いたポタージュ風の蕎麦がきの上に、翡翠(ひすい)色の銀杏(ぎんなん)ソースをかけた熱々の小さな一品をお出ししています。感覚としてはフレンチのアミューズのような料理ですが、蕎麦がきは和のものです。そして上湯を使っているので、当然中華のニュアンスもある。他ジャンルであっても気に入った要素は自由に取り入れ、楽しみながら中国料理に向き合っています。
マコモダケには、思い入れがあります
私が20代でまだ修業中の頃、今から30~40年前になるのですが、マコモダケは台湾と中国から輸入していました。それが、今は日本で作っている農家さんがいっぱいいる。マコモはイネ科の植物で、お米を作っている田んぼで同様に育てられています。
私も産地には何度も行きましたが、きれいな水の中にトウモロコシのようにスッと立っている姿がすがすがしい。刈りたてをすぐに折って食べると、甘くておいしいんですよ。10~11月は、甘みが凝縮した生のマコモダケを食べられるシーズン。店でも、スライスしてサラダに仕立てたものを肉料理の付け合わせにたっぷりとつけるなどして、お出ししています。農家さんが勉強して、きちんと開発して、フレッシュなマコモダケが随分と手に入りやすくなった。であれば、料理も進化しなくてはいけません。
トゥーランドットをオープンした20年ほど前に、私は「マコモダケの牛ロース巻き」という料理を考案して、これが大ヒットしたんです。なので、もう何十万本もマコモダケを使っていると思います(笑)。ただ、実際にうちの店で使うというより、マコモダケの知名度を上げたという意味で、農家さんに貢献できたかな。それが何よりもうれしいですね。
お茶から茶器へと関心が広がって……
中国茶は、2000年くらいから日本でブームになりましたね。その少し前から私も個人的に中国茶のファンになっていて、次第に台湾や香港、杭州に買い付けに行くようになりました。そうなると茶器もコレクションするようになり、宜興(ぎこう)という、上海や杭州から少し内陸にある陶器で有名な街なのですが、そこまで買いに出かけるまでに。有名な作家さんの、結構値段の張るものも買ってしまいましたね。写真の中の、大きい二つが宜興で買ったもの。形の美しさ、表面のなめらかさが格別です。
一方、台湾では小さい急須を使います。コロンと丸い、あるいは平らなどいろいろな形がありますが、これは丸くもんだ茶葉、葉が開いたままの茶葉、それぞれに最適な形なんです。なので、贅沢ですが、お茶の種類ごとに急須が決まっているのが本式。そして高級なものは空気も漏らさないほど蓋と本体が付き、密封性がある。そんな上質なものに出合うと、ついまた買ってしまいたくなります(笑)
日本の中国料理を代表するシェフである、脇屋友詞氏。1996年の「トゥーランドット游仙境」のオープンで、日本の中国料理シーンは一気に塗り替えられたと言っても過言ではない。旬の食材をふんだんに使った、創作的かつモダン、しかもおしゃれな雰囲気をまとった中国料理は、脇屋氏のトゥーランドット以前にはなかったものだ。脇屋氏はもともと赤坂山王飯店、東京ヒルトンホテル、キャピトル東急など、伝統的な中国料理の名門と呼ばれる店でしっかりと修業を重ねた経験の持ち主。
とりわけ上海料理への造詣(ぞうけい)が深い。そのため、伝統的な中国料理の魅力と長所を十分理解したうえで、現代のお客に合わせた変化を中国料理にもたらすことができた。脇屋氏がもたらした変化とは、例えば、料理を銘々盛りにする、野菜をたっぷり使う、海鮮の蒸し料理などヘルシーなメニューを前面に出す、デザートに力を入れる、という具合。その結果、お客から愛され続けるスペシャリテが多く生まれた。
――マコモダケに牛肉を巻いて甘辛味で煎りつけた「マコモダケの牛ロース巻き」、蒸し料理の仕上げに凍頂烏龍茶をかけ、客前で一気に香り立たせる「海鮮の清香」、ネーミングも秀逸なデザート「とろとろ杏仁」「するする杏仁」などが知られている。その一方で、伝統的中国料理が持つ骨太な魅力、迫力や深みのある料理もメニューに載せ、「正統を継ぎながら、新機軸を打ち出す」というバランスを実現した。
「お客様に喜んでいただきたい。中国料理の魅力を、多くの人に伝えたい」という一心で新しい試みを続ける姿は、パワフルそのもの。伝統的バックボーンと、旺盛なサービス精神の両方を持つ料理人はまさに最強だ。「ここ数年、台湾のホテルに技術指導に行くようになったんですよ」と話す脇屋氏。日本人が本場で、中国人に、中国料理を教えるというのは、実に大きな快挙である。伝統を踏まえながらヘルシーで、現代の人たちの舌においしい料理は、国境も国籍も超えて人気。
脇屋氏の活躍は、まだまだ続く。
● Wakiya一笑美茶樓
東京都港区赤坂6-11-10
TEL03-5574-8861
営業時間11:30~14:30(L.O.)
17:30~22:00(L.O.)
※土曜・日曜・祝日21:00(L.O.)
定休なし
※『Nile’s NILE』2018年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

