ジュエリーの名門ブランド、ブルガリのリストランテでエグゼクティブシェフを務めるルカ・ファンティン氏。このリストランテに、「モダンでクリエーティブな、東京を代表するイタリア料理店」という評価を定着させた実力の持ち主である。国内外でエネルギッシュに活躍し、評価と存在感を高めている。
1979年イタリア・トレヴィーゾ生まれ。スペインの「アケラレ」や「ムガリッツ」で修業、ローマ「ペルゴラ」にてスーシェフを務める。2009年より「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」のエグゼクティブシェフ。2011年よりミシュラン一つ星を保持し、今年の「アジアのベストレストラン50」で28位にランクインする。
大好きな食材、ウニのスペシャリテ
日本で出合って感銘を受けた食材はいくつもありますが、ウニもその一つです。今回紹介するパスタは、シェフに就任して間もない頃、ウニに出合って考案した一品です。
イタリアにもウニはありますが、日本のものとは風味がまったく違います。しかも私はイタリアでも北のほうで育ったので、南に産地があるウニとはなじみが薄かった。ですので、日本でウニに出合った時には非常に感動しましたね。甘みと海の香りに魅せられ、ぜひウニが主役のスペシャリテを作りたいと思ったのです。
この料理のソースは、軽く加熱したウニのほか、ホタテのブロード、魚のブロード、トマトも入っており、乳化させて作ります。ウニの風味を強く感じつつも、味わいに厚みと深みがある仕立てです。ウニはソースにたっぷりと入れてパスタに絡めるとともに、仕上げに生ウニをトッピング。そこに食感のある塩、レモンの皮のすりおろしをふって完成です。
ウニは、この料理を考案した当時の私にとっては新しい食材。一方、日本の方々にとってはおなじみの食材。取り組むのはちょっとしたチャレンジでしたが、幸いお客様からも好評をいただいて、定番の一品となっています。
50歳の誕生日で引退が夢!
来年で、日本に来てから10年になります。日本には、今の店のシェフ就任の話をいただいて来ると決めたのですが、長く暮らそうという意識はなく、まずは目の前のチャンスにチャレンジしよう、という気持ちで来ました。実際に生活してみると、清潔で生活の質も高く、とても過ごしやすいです。ただ、人々のメンタリティーがもっとオープンになるといいのに、と思います。自分の意見をはっきりと言うのを遠慮する気持ちは、イタリア人にはないですから。日本の暮らしやすさと、イタリア人のオープンな気質が合わさったら、パーフェクトな国だと思います(笑)。
10年暮らす中で、私は結婚をし、子供も3人授かりました。日本の人口増加に貢献しているので、国から表彰されてもいいんじゃないかな?(笑) 仕事が忙しい毎日ですが、朝食を用意して、子供たちを幼稚園に送るのは私の役目。休日に外に遊びに連れて行ったりもしています。それが、最低限で貢献できることですね。
私は来年で40歳になりますが、50歳で引退したい、と思っているんです。2029年の4月5日。この日が私の50歳の誕生日なのですが、スパッと引退したいですね。長い引退生活が楽しみです(笑)。それまでは、全力で仕事に取り組みます。
ピンセットはチームの証
「今、愛用しているもの」として、パスタ、パスタ用のトング、盛り付け用のピンセットを紹介します。
フェリチェッティ社の「モノグラーノ」シリーズのパスタは、非常に希少な、原種に近い小麦が使われています。味、香り、食感ともに群を抜いてすばらしい。パスタは、鮨におけるシャリのようなもの。一つの素材として重視しています。
パスタ専用のトングは、ボローニャの調理道具専門店で買いました。日本に来る前から使っている、長年の相棒です。先端が丸く、生パスタをつかんでも崩れない、とても使いやすい道具です。
盛り付けでピンセットを使うと、格段に集中力が高まります。この店では必須アイテムで、スタッフ全員に名前入りのピンセットを私から贈っているほど。新人には、1カ月ほど様子を見て本採用になったら贈ります。名前入りの道具をもらったら、辞めにくいでしょう?(笑) それは冗談ですが、ピンセットは、いわば私たちのチームの証しです。
ブルガリ銀座タワーにオープンするリストランテのシェフに就任したのを機に、来日したルカ・ファンティン氏。
当時30歳。来年で10年の節目を迎える。ファンティン氏の料理を形作っているのは、イタリア料理のベース、食材――特に日本の食材――への理解、そして現代的なセンス。食材や料理に対する心構えは、穏やかで誠実な人柄そのまま。現代的な技術、演出を用いる際も、それは「料理の味のため」という目的の中でのこと。表現や技術の面での挑戦を続けながら、あくまでも食材と味に寄り添う姿勢が、氏の料理では貫かれている。
このように料理と向き合いつつも、新しい世界との出会いも求め続けるファンティン氏。ここ数年は世界各国のトップシェフとのコラボレーションイベントを定期的に開催し、スペイン、南米、オーストラリア、アメリカ、アジア……それこそ世界中のシェフと組んでの精力的な活動を続ける。そのバックボーンにあるのは、「常に新しいことにチャレンジして、成長したい」という生来の情熱。日本に来たのもチャレンジであったし、その前の修業時代もチャレンジと旅の連続であった。
――まずは母国イタリアでの修業を経て、モダンガストロノミーでもっとも勢いがある国、スペインに渡った。そして「アケラレ」や「ムガリッツ」など、トップシェフの厨房(ちゅうぼう)で修業を重ねた後、「龍吟」山本征治氏のサンセバスチャンの料理学会での発表に感銘を受け、東京の同店で研修。その後はイタリア・ローマにて、ミシュラン三つ星の「ペルゴラ」ハインツ・ベック氏のもと、スーシェフとして働いた。
こうして積極的に新しい土地へ出かけ、ステップアップを重ねる20代を過ごしたうえでの来日、シェフ就任、そしてこの10年の活躍がある。「ここ数年、毎月のようにあちこちの国に出かけて仕事をしています。刺激的で楽しいのですが、ちょっと忙しすぎるかもしれませんね」と笑う。実力と発信力を兼ね備えたファンティン氏には、ますますの活躍と飛躍が期待されている。誠実に、一歩ずつ向上する氏とその料理から、目が離せない。
● ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン (2026.07現在は閉店)
東京都中央区銀座2-7-12
ブルガリ銀座タワー9F
TEL03-6362-0555
営業時間【10月~12月】11:30~14:00(L.O.)17:30~20:30(L.O.)※日曜・祝日・連休最終日ディナー営業なし
【1月~9月】11:30~14:00(L.O.)17:30~20:30(L.O.)※火曜・土曜ディナー営業なし
日曜・月曜定休
※『Nile’s NILE』2018年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

