19世紀初頭、香木を積みだしていた小さな漁村は、20世紀には国際貿易都市となり、様々な侵攻に揉まれながら今日に至っている。この数奇な都市国家の光と影と共に1世紀近く存続してきたのが、ザ・ペニンシュラ香港だ。
1842年、アヘン戦争で香港島が英国領となり、続いて1860年に九龍半島も割譲された。そして、1928年、中国の内戦の影響を受けながらも、九龍半島の先端に開業。香港啓徳空開港の少し後であったが、多くの旅行者は船や列車で訪れた。ちなみに、現在は九龍駅の時計塔のみが、ホテル前のウォーターフロントに残されている。
優雅なアールデコ・タッチのコロニアル風情が漂う贅沢なホテルは、東洋への欧米著名人旅行者に愛用された。第二次大戦中に日本に摂取されたが、その後ホテルとして再開。国際金融都市として急成長する香港のランドマークとして輝き続けた。
1970年には九龍半島南端の再開発で、ホテルが面していた港の水際が埋めたてられた。湾から一歩奥に立地するようになったホテルに、1994年に300室の客室を有するタワーが増築され、現在の姿となった。
その佇まいが変わることなく、1997年に、香港は英国から中国へ返還される。ザ・ペニンシュラ香港は返還の際には英国統治時代の象徴する存在として多くのメディアに取り上げられた。四半世紀を経て、今も古き良きクラシック・ラグジャリーを体現できるホテルとして世界の旅行者を迎えている。
ホテルの正面、かつては飛行艇が発着した水辺は、今は主要道路が走りミュージアムが建つ。だが、一歩正面エントランスを入り、優美な金箔に縁どられた吹き抜け天井も壮麗なロビーラウンジに入ると、時を超えた豊穣な旅に誘われていた。ストリングスのノスタルジックな調べ、銀盆を持ってきびきびと立ち動く給仕達・・・
香港の名所ともなっているロビーラウンジだが、外の喧騒とは全く別世界の優雅なコロニアル・クラシックな空間に迎えられる。ラウンジ奥に設けられたゲストを向かえるフロントは、柔軟なチェックイン・アウト時間の対応で、いつも落ち着いた雰囲気だ。
案内された客室タワーの客室からは、船の行き交うヴィクトリア湾と香港島のスカイラインが一望にできた。望遠鏡が備えられた展望コーナーも。大理石の浴室バスタブからはビクトリア・ピークの稜線が望めた。ハーバービュースイートからのパノラマは終日眺めていても飽きることがない。
ホテル内には8軒の飲食店があり、70年前に東洋で初めて西欧の本格的な料理を提供したフレンチのガディス、広東料理のスプリングムーンがミシュラン星を誇る。ロビーラウンジのアフタヌーンティーは一世紀近い歴史を持つ英国本格派。東西の山海の幸のメニューが豪勢に並ぶ朝、昼、夜のブッフェで知られるザ・ベランダは地元にも大人気だ。
8階プール・サイドの海風が心地よいテラスでの軽食も格別だ。起き抜けに、あるいは隣接するスパの後に、ローブ姿でヘルシーな朝食やスナックが堪能できる。すっかりペニンシュラの居心地にはまってしまい、外出が面倒になっても、選りすぐられた38店舗が並ぶのホテルのアーケードでショッピングが楽しめる。
もっと遠出をしたければ、ホテルに用意されているペニンシュラ仕様のロールスロイスで。あるいはタワー棟のへリポートから、覧飛行やマカオへ。両者、空港の送迎にも活用できる。ヘリパッドの横にある待合ラウンジ、チャイナクリッパーは香港に運航していた飛行艇の名前をとったもの。特別な会合やパーティにも活用されている。
ラウンジは飛行艇のクラシックなインテリアを一部再現していて、短い飛行(空港までは約18分、マカオまでは約15分)にも拘らず、遥か遠い旅へ出向くような気分の高揚・・・ザ・ペニンシュラ香港の滞在自体が、時を忘れる豊穣なラグジャリーへの旅であった。

