三科氏が石かわに入ったのは23歳のこと。その前の店は「1年で挫折した」こともあり、「ここで3年がんばれなければ、何をやってもダメだ」と思ったという。そう覚悟を決めたからか、石川氏に叱られては小泉氏に慰められる毎日の積み重ねの中で、仕事の面白さに目覚めていった。結果、1年半ほどで煮方にスピード出世。2008年にオープンした虎白、また翌年開店した蓮と、7年間煮方を務めた。蓮では「当時の料理長と一緒にメニューを考えさせてもらうようになった」そうだ。そして蓮の店長兼料理長を任されたのは2014年、30歳の時だった。
「おやっさんからは技術的なことより、考え方――『妥協せずに、自分がおいしいと思うものをお客さんに提供しなさい』と教わりました。例えば仕上げは、生姜の搾り汁1滴、2滴まで見極める。そこがちゃんとわかって初めて、仕上げを任せてもらえるんです。最初は生姜を搾ることすらやらせてもらえず、仕上げを任せてもらえるまで2年近くかかりました。でも、そういう日々の積み重ねがあったからこそ、蓮を任された時は、細かい指示はまったくなかったのかもしれません。ただ『石かわよりもっとシンプルに作ることだけを考えろ。あとは好きにしていい』と言われただけ。今日、毘沙門天で『仕事に雑用はない。雑用だと思っていると、そこから崩れる』というお話がありましたが、僕もどんな仕事も大切にし、楽しくやっていこうという気持ちを磨いてきたことが良かったのかなぁと思います」
三科氏は今も、「おやっさんに日々のすべてを見守ってもらっている」と実感している。
「あと、蓮でカウンターに立つようになって、もともとは苦手だった接客も苦ではなくなりました。むしろ、お客さんの反応がダイレクトに伝わるのが楽しくてしょうがない。今は10品中7品くらいはカウンターで仕上げていて、それが仕事の醍醐味だと感じています」
そんな三科氏が作った蟹料理は、究極のシンプルを追求したもの。「うちはカウンターがメインの狭い店なので、そこを生かして、蟹や筍などのいい香りのする料理が合うんですよね。今日はズワイガニの脚だけ半レアに焼いて、おなかの身はほぐして蟹酢などで食していただくものにしました」との言葉通り、まず蟹の香りのカウンターパンチにやられてしまうおいしさだ。
この日、「久々におやっさんと小泉さんが料理をしている姿を見た」三科氏は、2人が一瞬、一瞬、最高の形を作ろうとしている情熱がビンビン伝わってきたという。「新年早々、すばらしい機会が持てました」とさわやかな笑顔を見せてくれた。
● 蓮 (2026.10現在は「蓮三四七」として銀座へ移転)
東京都新宿区神楽坂4-3-2 近江屋ビル
TEL 03-6265-0177
※『Nile’s NILE』2018年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

