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神田裕行、Mie Ikenoと出会う

元麻布「かんだ」の神田裕行さんは今、日本ワインの拡充を図ろうと、ワイナリーを訪ねる機会を増やしている。今回の訪問先は、池野美映さんが2007年にオープンした「ドメーヌ ミエ・イケノ」。標高750m、八ヶ岳のふもとで葡萄栽培から一貫してワインを造るドメーヌだ。両者の縁をつないだのは、漫画『神の雫』の原作者・亜樹直(あぎただし)の一人、樹林ゆう子さん。3人が繰り広げる“ワイン談議”から、華やかな香りが立ち上る。

Photo Chiyoshi Sugawara Text Junko Chiba

元麻布「かんだ」の神田裕行さんは今、日本ワインの拡充を図ろうと、ワイナリーを訪ねる機会を増やしている。今回の訪問先は、池野美映さんが2007年にオープンした「ドメーヌ ミエ・イケノ」。標高750m、八ヶ岳のふもとで葡萄栽培から一貫してワインを造るドメーヌだ。両者の縁をつないだのは、漫画『神の雫』の原作者・亜樹直(あぎただし)の一人、樹林ゆう子さん。3人が繰り広げる“ワイン談議”から、華やかな香りが立ち上る。

八ヶ岳のふもと、標高750mに位置するドメーヌ ミエ・イケノでは、化学肥料や除草剤を使わずに3.6haの畑でシャルドネやピノ・ノワール、メルローの3品種を栽培している。剪定した枝や幹も畑で堆肥化する資源循環型農業を行う。

小淵沢駅からドメーヌ ミエ・イケノへ。晴天率の高いこの地に珍しく、この日は土砂降り。神田裕行さんと樹林ゆう子さんを醸造所で出迎えた池野美映さんは、「晴れていれば北に八ヶ岳連峰、東に秩父連山、南に富士山、西に南アルプスが望めるんですよ」と、少し残念そう。 「畑の広さは3.6ha。内40%がシャルドネで、あとピノ・ノワール、メルローを各30%栽培しています。ここは戦後50年、耕作放棄地だったところで、戦前は桑畑でした。桑の根を取り除くのが大変な上に、伸び放題の雑草を野焼きしながら整地し開墾したので、一気に畑にできなかったのです。2007年に目の前の斜面から植樹を始めて、2009年にすべてを植え終わりました」

醸造所の目の前、斜面に広がる畑は通称「猫の足跡畑」。池野さんが最初にこの土地を見に来た時に、猫の足跡があったことに由来する。

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    醸造所のすぐ目の前、なだらかな斜面に葡萄畑が広がる。畑からは北に八ヶ岳連峰、東に秩父連山、南に富士山、西に南アルプスを望める。この辺りは全国でもトップクラスの日照時間と晴天率を誇る。
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    試飲会の会場となった星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳のメインダイニング『オットセッテ』には、ドメーヌ ミエ・イケノのバックヴィンテージも多数そろえている。今回、『オットセッテ』のディナーコースとともに、ドメーヌ ミエ・イケノの貴重なワインを楽しんだ。左から、パーティ・パーティ! シャルドネ 2013(非売品)、シャルドネ 2016(6月2日リリース)、月香(つきか)シャルドネ 2015 ムーンライトハーベスト、メルロー2010、ピノ・ノワール 2013。
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    醸造所を斜面に配置し高低差を設けることで、ポンプによる移送をせず、自然に流れ落ちる重力を利用して行う昔ながらの製法をとっている。そのための工夫が建物内の随所にある。目の前の畑で手摘みした葡萄を醸造所の1階へ運び、除梗や圧搾をして地下1階のタンクで発酵、その後フレンチオークたるで地下貯蔵庫で熟成させる。
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    人工的な負荷をかけず、自然の力を利用したワイン造りができるように工夫が凝らされている醸造所を興味深く見る神田裕行さん(左)。それを説明するドメーヌ ミエ・イケノ代表の池野美映さん(中)。今回、神田さんに池野さんを紹介した、漫画『神の雫』の原作者・亜樹直の一人、樹林ゆう子さん(右)。
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さっそく畑に出た神田さんは「葡萄の木の間隔がけっこう広い。ヨーロッパだと間にもう1列入りますね。池野さんのこだわりですか」と質問を向ける。「雨の多い日本ではあんまり密植すると風が通らなくて、病気になりやすいのです。確かにブルコーニュだとこの3倍くらい密植してます」と池野さん。樹林さんは「先日ニュージーランドのワイナリーを視察しましたが、収穫を機械化している畑がほとんど。でも日本のワイナリーの大半は、生産者が手間ひまかけて葡萄を育てています」と早くも〝ワイン談議〟がスタートした。

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    樹林ゆう子(きばやし・ゆうこ)
    1958年東京都生まれ。フリーランスライターとしての活動に加え、1990年代前半から弟の樹林伸とともに、亜樹直のペンネームで漫画の原作を執筆。『神の雫』は2004年11月から『モーニング』で連載が始まり、単行本44巻発刊。一度連載を終了したが、2015年5月から続編『マリアージュ ~神の雫 最終章~』の連載を開始。
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    神田裕行(かんだ・ひろゆき)
    1963年徳島県生まれ。大阪『昇六 喜川』で日本料理の世界に入り、1986年に23歳で渡仏。パリの日本料理店で5年間料理長を務める。2004年に独立して、東京で元麻布『かんだ』をオープン。ミシュランガイドで11年連続三つ星を獲得する。
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    池野美映(いけの・みえ)
    葡萄作りから醸造まで自らの畑と醸造施設で一貫して行う『ドメーヌ ミエ・イケノ』の代表取締役社長。2001年に渡仏し、国立モンペリエ大学薬学部D.N.O.専攻にて、2005年フランス国家資格ワイン醸造士取得。2007年八ヶ岳山麓にて葡萄の栽培を開始。2011年には醸造所も完成。2009年に初ヴィンテージをリリースした。
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ワイナリー見学後は舞台を星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳のレストラン「オットセッテ」に移してワイン談議を続行。同じ風土で育ったワインと野菜などのマリアージュを楽しみつつ、話が盛り上がる。

神田 畑の目の前に醸造所があるのがすばらしい。特にピノ・ノワール(以下、ピノ)みたいにフレッシュ感を重視する品種は、仕込むまでのスピードが大事ですからね。

池野 収穫してすぐ仕込みできるのがこのワイナリーの最大のメリットです。赤は取った分だけすぐにタンクに入れて、白はプレスできる容量を考慮しつつ、収穫して仕込んでいます。

神田 距離は大事。料理屋も目の前のカウンター席にスッと出すのと、遠くの座敷に運ぶのとでは違いますから。タンクに流す時はポンプで?

池野 いえ、ポンプは一切使いません。果汁やワインの劣化が心配なので、搾汁したままの自然な状態を大切にしています。畑では葡萄を粒単位で収穫前に選果しておき、素早く手摘みした後、仕込んでいきます。葡萄やワインにポンプなど人工的な負荷をかけたくないので、自然に落下する重力を利用して、瓶詰めまで行います。世界的にもかなり珍しいようです。

神田 ファーストヴィンテージは?

池野 2009年です。

樹林 私、それを飲んで、こんなにすごいピノが日本にあったのかと驚きました。実は『神の雫』でも、日本ワイン編をやってほしいという声があったんですが、フランスでいうボルドーのような力強い赤と、ブルゴーニュのような優雅な赤が、両方そろわないとドラマにならないと思ってました。ボルドー系のものは日本にもありましたが、ブルゴーニュに比肩するようなピノがなくて、諦めていたところにミエ・イケノのピノに出会ったんです。おかげさまで念願の日本ワイン編が創れました。こんなに優雅なピノが生まれるのは、土造りから始まって、葡萄に負荷をかけずに自然な醸造を行っていることが大きいですね。

池野 堆肥も剪定枝を利用して、もみ殻に米ぬかと鶏糞を混ぜ、発酵させて作ってますし、ラベルも1枚ずつのり付けしてます。あと、澱が下に降りていくギリギリまでタンクを倒して上澄みを取る道具とか、破砕した後に果汁と皮を一緒に運ぶベルトコンベヤーとか、オリジナルで作りました。

神田 池野さんの中に、こうしたいっていうのがクリアにあるんですね。そこを妥協しないために道具まで作るとは⁝⁝勉強になります。どこまで手をかけるか、小さなことは無視するか、そこに造り手の生き方が反映されますね。料理屋も同じです。食事がスタート。微発泡のパーティ・パーティ!が登場。

池野 これは2013年のシャルドネで、内々に造った非売品なんです。ここオットセッテだけに数本置いてもらっています。

神田 あ、いいじゃないですか。

樹林 うん、おいしい。優しい。

神田 シャンパーニュにしても、フランチャコルタにしても、酸の方向性は一つですが、これは二重でいってる感じがする。オレンジっぽいのとレモンっぽいのが混在してますね。

樹林 グラスの中で回遊してる感じ。余韻にオレンジのアロマが感じられますね。

神田 そう、コルシカで飲んだスパークリングに似てる。あれはオレンジを交雑してるんじゃないかってくらいオレンジが残ってました。ピノ&メルロー談議へ。

樹林 これは2013年、暑かった年のピノですね。

池野 はい、ここは138年ぶりの猛暑で、早めに収穫しないと酸が落ちてしまうので、悩みに悩んだうえ、大急ぎで取りました。

神田 最初はちょっと還元香があるけど、クリーンな感じですね。15年はもう少しアンダーな感じで内向的。13年の方がジューシーで陽性。ふわーっとしたトーンですね。

樹林 伸びやかですよね。

池野 15年もあと何年かすると変わってきます。15年くらいはエイジングできると思っています。

神田 実は僕もそう思って、前に購入した15年はまだ、店ではオンリストしてません。それにしても13年のピノ、トマトに合いますね。今度、台湾のホテルでのイベントで使わせてもらうんですが、肉の付け合わせをトマト素麺にしようかな。炭水化物の甘さが加わると⁝⁝

樹林 絶対いい、面白い!

池野 ピノは16年に急に大人になった感じです。植えてから9年経つのですが「ママ」から「おふくろ」と呼ぶ少年のように(笑)。

樹林 ワインってほんと、子どもの成長と似たところがありますね。

神田 この16年はリリース前の今でも、やばいくらいおいしい。エイジングさせたらもっとおいしくなりそうですね。僕の記憶では、ブルゴーニュの名門、メオ・カミュゼのエシェゾーが一番近いかな。

池野 16年は必死でがんばりました。というのも15年は自分に隙があったのかな、収量がかなり減ったんです。それで反省して「16年は絶対に取る!」って決めて。台風が立て続けに上陸するなど、天候条件が悪い中でも、収量を確保できました。

神田 がんばって造った人のワインは、ヴィンテージに関わらず、本当にすばらしい。天候を言い訳にするような二流の人生は送りたくないもんね。

樹林 メルローは神田さんの料理に合いますよ、きっと。注いでから飲みごろになるまで時間がかかりますが。

池野 それは私のせいです。ちゃんと育てなきゃ、熟成させなきゃという思いが強過ぎて、プレッシャーをかけちゃったんだと思います。

樹林 なるほど、だから時間がかかる。やっぱり子どもと同じだね。月香 シャルドネ 2016 ムーンライトハーベストへ。

池野 これは6月2日にリリースされるもので、真夜中に葡萄を摘んで、そのまま翌日の夜まで仕込みを行いました。

樹林 ナイトハーベストをやると、寝込みを襲われた葡萄は本能的に旨みを粒の中に封じ込めるとかいわれますよね。確かにこれは甘い果実味がバーンと出てます。

神田 ミネラル感がすごい!

樹林 太いペンシルで書く感じの個性が出てますね。あと、今キラキラしてるこのコが5年、10年でどう変化をするのかを見たい気がします。

池野 前年の15年の月香はいかがですか。

神田 熟成月香ね。何か、最近飲んだドメーヌ・フルーロ・ラローズのル・モンラッシェに似てる。繊細さにおいて。

池野 モンラッシェ! うれしいです!

神田 香りの出方が全然違いますね。総じて今日思ったのは、池野さんもピノも月香も進化の途中なんですね。どこまでも手をかけたいという今の気持ちを大切にして進化して欲しい。で、現在大人気で〝札止め〟状態の池野さんのワインをぜひ僕らに⁝⁝

樹林 分けて欲しい!

日本初のワインリゾートであるリゾナーレ八ヶ岳には、ワインを味わうだけでなく、ワインにまつわる文化体験も提案している。施設内のワインショップ『八ヶ岳ワインハウス』では、山梨県と長野県で造られた24種類ものワインを気軽にテイスティングできるワインサーバーを用意。

● 星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳
TEL 0570-073-055

※『Nile’s NILE』2018年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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